研究課題/領域番号 |
15K12823
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研究機関 | 静岡文化芸術大学 |
研究代表者 |
梅田 英春 静岡文化芸術大学, 文化政策学部, 教授 (40316203)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 大正琴 / 名古屋輸出楽器玩具工業組合 / バリ島 / プンティン |
研究実績の概要 |
本研究は、大正元年に日本で創作され、現在も日本各地で演奏されている大正琴のアジア各地への輸出の状況、また特にインドネシアにおける楽器の伝播、変容のメカニズム、またインドネシアでの演奏の現状を明らかにするものである。本年度は以下の2点1)戦前における大正琴の輸出状況と2)バリ島カランガッスム県におけるプンティンのアンサンブルの現状、に関する調査を実施した。 1)大正琴が輸出されていた事実は、すでに金子敦子の先行研究の中に散見できる。本調査ではその事実を資料によって確認した。27年度の調査においては、昭和2年に設立された名古屋輸出楽器玩具工業組合の昭和9年版の『定款並諸規程』を調査した。この組合は大正琴を製造していた中小楽器製作所が設立した工業組合である。これからわかることは、輸出大正琴の質の厳密な検査箇所、方法、楽器製作所ごとの輸出数等である。 輸出用の楽器は、楽器の材質、構造、部品の金属の種類などが細かく規定されており、粗悪品を海外に流出させないような厳密なチェックが行われていることが明らかになった。海外にはこうした検査を通った優れた楽器のみが輸出されており、結果的その品質の高さによって、インドネシアを含め、海外で受容されたことも考えられる。 2)本調査の5年前に、バリ島東部カランガッスム県において、日本から伝播した大正琴が変容したプンティンとよばれる楽器のアンサンブルの存在を確認しており、27年度はこのグループの活動の現状、楽器の調査を現地にて行った。この調査において明らかになったのは、5年前に比べて使用される音階が多様になり、いわゆる五音音階のガムランでは演奏できない複雑な楽曲を演奏することができるようになった点にある。かつてはこれまでのガムランの楽曲をそのまま演奏していたものが、楽器の特徴に合わせ、次々と作品が創作されるようになっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今回の調査では、日本における戦前の大正琴の輸出状況の調査とバリでの調査を行った。研究実績としてはそれぞれの調査・研究を通して実績を出すことができたが、バリでの調査の一部に遅延がみられた。その理由は以下の二点である。 進捗状況の若干の遅延は、インドネシアでの調査の遅れである。当初は、バリ島のカランガッスム県にて2つの大正琴を起源とする楽器を使用したアンサンブル・グループの調査を行う予定であった。しかし一つのグループの調査はできたものの、もう一つのグループについては、調査グループの親族に予期せぬ不幸があったことから、調査のための会合は開催できなかった。主催者に直接会って、グループの歴史をはじめ、活動状況を聞くことはできたが、実際の演奏を調査することで、演奏方法、曲目などの詳細な調査を行うことができなかった。 また楽器そのものを調査する予定であり、8月に楽器製作者に注文したが、今年度には完成できずその部分の調査に遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下の三点、1)昭和初期における名古屋からの大正琴の輸出実績に関する詳細なデータの調査、2)インドネシアにおける大正琴の伝播の諸相と楽器使用の実態についてより詳細な調査、3)インドネシアで変容した楽器の調査を実施し、その成果をまとめることにある。 1)について現在、調査の中心として用いている文献は、名古屋輸出楽器玩具工業組合『定款並諸規程』(昭和9年版)である。しかし、実際にこの組合の成立は昭和2年であり、調査を用いた定款はすでに一部に改訂が加えられており、それ以前の内容は昭和9年版からは確認できない。そのため名古屋を中心とした図書館や文書館において、この定款の昭和9年以前の版を見出して、その内容を確認したいと考えている。『名古屋港入港船舶並貿易統計』が名古屋大学等の図書館に所蔵しているため、そうした資料の調査を行う予定である。 2)については、今後は今回調査できなかったカランガッスム県のグループ、さらにはバリ島西部のタバナン県のグループ、さらにはロンボック島、スラウェシ島における大正琴について、特にその楽器が演奏されているモスリムの集落を中心に調査したいと考えている。 3)の楽器調査については、この7月に楽器が完成する予定であり、その楽器をもとにインドネシアの各地の音楽の諸特徴に合わせた楽器改良がおこなわれたのかを明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は物品費として、日本国内およびインドネシアでの調査で使用するパーソナルコンピュータを購入する予定であったが、今回は使い慣れた個人のパーソナルコンピュータを使用したたことから、当初計上した予算を使用しなかった。また調査用に大正琴を起源とする楽器プンティンを購入する予定だったが、インドネシア側の製作の遅れにより今年度は購入することができなかった。また予定では、購入した楽器をもとに、人件費を用いて、写真撮影、コンピュータでの解析を予定したが、楽器の入手が遅れたことから使用することができなかった。こうした事情によって今年度分に残額額が発生したものである。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は、7月にインドネシアでの短期の調査を行う予定であるが、その時までにインドネシアの楽器職人に楽器製作を依頼していることから、その後、購入楽器の調査にかかる費用を使用する予定である。
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