本研究の全体構想は、ヴァラッロのサクロ・モンテの各礼拝堂内の最初期から現在に至るまでの彩色木彫群の全体像と、それらの造形的・技法的特徴や変遷等を明らかにし、美術史上への正当な位置づけを行うことが目的であった。本研究はその全体構想のうち、①最初期の彩色木彫群に焦点を当て、それらの誕生の必然性や造形的・技法的特徴等の解明を行い、また、②ルネサンス以降、彩色彫刻全般が等閑視されるようになった理由や経緯を解明し、そうした評価の妥当性を再検証することで、ヴァラッロの彩色彫刻群の再評価と美術史上への定位を目的とした。しかし本研究では、ヴァラッロの彩色木彫群の北西イタリアにおける位置づけを行うため、まず当該地域に現存する中世末期から近世にかけての彩色木彫調査を敢行したため、②の課題については成果を出すには至らなかった。 具体的には、平成27・28年度は、予定通り年に2回ずつ北西イタリア(主にピエモンテ州とロンバルディア州)のヴェルチェッリ県やパヴィーア県、ローディ県、ヴァレーゼ県、コモ県、ソンドリオ県、トリノ県、スイスのロカルノ市等に存在する近世の彩色木彫群の現地調査・写真撮影、資料・文献収集を実施し、また、平成28年度には九州藝術学会においてヴァラッロの彩色木彫に関する口頭発表を行った。 平成29年度は研究最終年度であったが、当初の予定にはなかった別件の書籍の刊行作業などが入ったため、研究期間を1年延長頂いた。 最終年度の平成30年度は、過去2年間で踏査できなかった調査予定地(サロ市やビアンドラーテ市、モルターラ市、トレヴィリオ市、ベルガモ市、クレマ市、ベッラーノ市、ティラーノ市、ソンドリオ市など)の教会堂や博物館などにある彩色木彫の実見・写真撮影、資料・文献収集を可能な限り実施した。また九州藝術学会誌にヴァラッロのサクロ・モンテの彩色木彫に関する当面の研究結果を成果として公開した。
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