研究課題/領域番号 |
15K12830
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研究機関 | 公益財団法人大阪市博物館協会(大阪文化財研究所、大阪歴史博物館、大阪市立美術館、 |
研究代表者 |
中野 朋子 公益財団法人大阪市博物館協会(大阪文化財研究所、大阪歴史博物館、大阪市立美術館、, 大阪歴史博物館, 学芸員 (00300971)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 天覧 / 地方行幸 / 台覧 / 行啓 / 地方の美術工芸振興 / 工房の創立と継続性 |
研究実績の概要 |
天皇の行幸の際に行われた「天覧」記録ならびに天覧作品の写真資料の調査を継続的におこない美術工芸品の「天覧」情報を抽出した。また、地方において工芸作品製作を手がけた工房の活動実態の把握にむけて、明治後期以降に盛んに行われるようになり、行幸と「天覧」の契機のひとつともなる地方主催のさまざまな博覧会への美術工芸作品の出品状況についても注目し、出品内容の把握に着手した。その結果、地方で開催される博覧会は、国が主体となる博覧会の組織およびカテゴリーに倣い、類似する運営形態と出品カテゴリーを組織しているがより地域産品の比重が高いこと、おもに天皇に代わる存在として宮家を招聘する例が多いこと、招聘された各宮家はそれぞれに積極的に地方の博覧会へ行啓し各会場で「台覧」を行っている例が顕著に認められた。そこで、宮家による行啓と美術工芸作品の「台覧」ならびに作品買上の記録に関しても併せて調査をおこなうこととした。 なお、地方開催の博覧会においてはより一層地元に密着した出品者・出品工房が見られるがそれらの出品者・出品工房が万国博覧会におけるそれと連関性があるのかあるいは相違するのか、その実態を的確に把握する必要が生じたため、その確認を目的として明治後期から昭和初期にかけて開催された万国博覧会のための地方組織および出品者の把握を進め、地方の博覧会の出品者・出品工房と対比させることで、工芸家の“家”と工房が、博覧会の性質や時代の変容のなかでどのように活動を継続したのか、あるいは継続できなかったのかについて把握できるよう準備を進めた。 並行して、美術工芸作品の「天覧」情報の抽出と出品者・出品工房の発掘と把握も推進した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の調査をうけて、天皇や宮家による行幸啓が頻繁に行われた地域のうち、工芸が盛んな愛知県、大阪府、京都府の三府県への行幸啓に関する記録を分析した結果、これらの三府県への行幸啓のおもな契機は(1)軍事関連行事(陸軍大演習など)、(2)各種博覧会、(3)陵墓等への参詣に集約される傾向であることが判明した。 特に注目すべきは(1)にともなう行幸啓で、愛知県および大阪府においてそれぞれ大規模に実施されている。大阪に関してはすでに論考等によって指摘しているが、重要な軍事拠点でもあった大阪においては太平洋戦争の激しい戦渦に巻き込まれ、工芸家の“家”と工房の活動が断裂あるいは消亡された例がみられる。これは軍需産業が盛んで繰り返し大規模な空襲を受けてた愛知についても同様の事象が発生したと想定できるため、愛知における「天覧」「台覧」には最も注目して関連調査を開始した。なお、愛知において特に注目すべき工芸家については現在選定中である。 (2)の各地域毎に多彩な展開を見せた博覧会についての内容把握にも努めた。「天覧」「台覧」への出品者・出品工房についての基礎情報の収集ならびに「天覧」前後の出品者の評価を相対化させるために「天覧」以外の博覧会、展覧会への出品歴とその評価に関する資料の収集をおこなう必要からである。 なお、京都府への行幸啓については(3)の陵墓等への参詣が主目的である場合が多く、また戦禍にも晒されていないため、愛知および大阪における工芸工房のあり方とは一線を画す状況におかれている。愛知・大阪の二地域と対比する存在として捉える必要があると考えるに至った。
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今後の研究の推進方策 |
(1)昨年度までの調査で注目することとなった愛知県、大阪府、京都府の三地域のうち、愛知と大阪におもな調査対象を絞り、美術工芸作品の「天覧」および「台覧」とそれにともなう各地域の美術工芸の振興との関わりを的確に把握するために美術工芸品の「天覧」「台覧」関連の記録を抽出してデータをとりまとめる。その際には、太平洋戦争前後の工房をめぐる状況の変化をできる限り把握する。 (2)出品者・出品工房についての基礎情報の収集と「天覧」前後の出品者の「天覧」以外の展覧会への出品歴と評価に関しては、各対象地域から3~5名を選定し、資料の収集をおこなうとともに写真資料や実作品の発掘を積極的に行う。 (3)これらの情報を集約して天皇や宮家による行幸啓による「天覧」あるいは「台覧」が各地方の美術工芸振興に及ぼした影響と役割について探求し、地方を舞台に活動した工芸家の再評価をおこない、その結果を出来るだけ迅速に発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度に予定していた鹿児島への調査を中止したため、当該調査に使用予定であった旅費が繰り越された。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度の調査旅費として充当する。
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