研究の最終年度にあたり、天皇の行幸の際に行われた「天覧」とそれに関わった地方の工房の活動実態の把握にむけて地方主催の各種博覧会における美術工芸作品の出品状況および出品内容の把握を中心に据えて調査範囲を「天覧」以外の皇族による観覧にあたる「台覧」にも拡げて調査をおこなった。また地方の工芸家ならびに工房による万国博覧会への出品実態を把握目的で明治後期から昭和初期にかけての万国博覧会に関する記録の把握を進め、地方の工芸家および工房の活動範囲が、時代の変容のなかでどのよう変化をし続けたのかについて検証を進め、かつ、実際の「天覧」作品の発掘と把握に努めるとともに研究の一部についてその成果を発表した。 また、大正期から昭和初期にかけての天皇あるいは摂政宮や各宮家による行幸啓は、軍国主義を背景とした陸軍大演習統監に関わるものが主体となって開催されたことは既に指摘したとおりである。そこで平成28年度から調査に着手した各地域で開催された博覧会に関連する「天覧」「台覧」への出品者・出品工房についての情報収集を進めた。また、「天覧」「台覧」が地方における美術工芸振興に関わりはじめた端緒を探るため、明治天皇の行幸のうち明治十年(1877)の奈良・大阪巡幸の記録である「明治十年行幸記」(奈良県立図書情報館蔵)ほかの史料によって明治天皇および皇太后による奈良県から大阪府への行幸啓の際に奈良県ほかの自治体における「天覧」「台覧」と美術品の献上の実態とその背景を追った。
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