研究課題/領域番号 |
15K12832
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
杉浦 誠 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 講師 (40625589)
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研究分担者 |
山口 泰 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (80210376)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 装飾彫刻 / 錯視 / 文化財 / 3D |
研究実績の概要 |
平成27年度は、主に愛知県内々神社の蟇股(龍)及び虹梁(波の文様)といった立川流の装飾彫刻の熟覧調査・写真撮影・写真測量(3D)で得られた情報より考察を行った。 今回の写真撮影においては、蟇股、虹梁の位置が地盤面より約4mの高さにあるが、参拝客に配慮することなどの理由から足場は設置せず、脚立上で一脚を用いた撮影やドローンを活用することで高所からの撮影を試みた。蟇股、虹梁は、下から見上げることを想定して彫刻するのが一般的である。そこで下から見上げて撮影した写真と彫刻に対して正面になるよう水平から撮影した写真を比較することで、拝観者の視線と実際の彫刻作業の関係性についての考察を行った。 拝観者の視点で蟇股の龍を見上げたときの頭部は、彫刻の垂直方向中央付近に位置し、水平から撮影した写真では中央よりかなり低い位置に彫刻されていることが確認された。通常拝観する位置(拝殿より下り、石段のある手前)での視点の高さを1m50cmと設定し、蟇股と虹梁を見上げたときの仰角を計算すると約30度となる。また写真測量から得られた正投影図からも30度を意識したと考えられる箇所が確認できる。龍の顔は正面図では目部が眉毛の陰になるが、視点を下げて30度で見上げると目部は眉毛の陰にはならない。 このことは、下絵と彫刻との関係性からも伺うことができる。立川流の手掛けた龍の下絵と正面及び下から見上げた写真を比較考察した結果、下絵では身体の周りを透かし彫りするため、刳り貫くことを想定した図となり、描かれた身体の向きは正面からの写真に近いものになるが、頭部については見上げた写真にその向きは近づき、下絵でありながらも、拝観者から見える顔に近い図が描いていた可能性が伺える。内々神社の下絵は現存していないため確認できないが、おそらく下図はそのような描き方であったと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度に本研究のテーマとなる錯視効果の可能性を有する装飾彫刻の調査を行うことができ、その成果の一部である3Dデータより形状を数値的に解析することや視点を変えた画像を作成することが可能になった。錯視効果の原理について計画通り考察したことで、次年度以降の研究の方針に役立てることができた。
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今後の研究の推進方策 |
内々神社の蟇股、虹梁は前年度考察した拝観者の視点による錯視効果だけでなく、今年度の研究テーマである歪みや陰影より生み出される錯視効果も確認されると考えられるため、今年度も引き続き内々神社を中心に考察を行う。その一方で山車等に用いられる装飾彫刻の調査も行い、比較検討を試みる。これまでに考察した下図と装飾彫刻の関係性より、現存していない内々神社の龍の蟇股の下図を想定した図の制作を行う予定である。 またその効果を実証するために実際に装飾彫刻の手板制作を行い、陰影による立体感の効果や3Dデータ・3Dプリンターを活用することで歪みの効果を検証する。
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