研究課題/領域番号 |
15K12837
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
三船 温尚 富山大学, 芸術文化学部, 教授 (20181969)
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研究分担者 |
三宮 千佳 富山大学, 芸術文化学部, 講師 (10454125)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 3Dスキャン / 切削研磨程度評価 / 根津美術館蔵金銅仏 / 韓国国宝78号金銅仏 / 造形の稜線・谷線 / 制作・造形監修 |
研究実績の概要 |
根津美術館において、①釈迦多宝二仏並坐像(列品番号20059:北魏太和13年銘)、②観音菩薩立像(列品番号20002:白鳳時代)、③観音菩薩立像(列品番号20004::白鳳時代)、④釈迦如来立像(列品番号20046:新羅仏)、⑤七仏連坐像(列品番号20073)、⑥観音菩薩立像(列品番号20005:白鳳時代)、⑦五尊仏坐像(列品番号20076:銅板打ち出し:唐代)について、全形を点間距離55ミクロンレンズで、部分を点間距離17ミクロンのレンズで3D計測し、稜線・谷線の切削研磨の形状を把握した。③と⑥については研磨程度を数値評価した。①は北魏仏特有の粗い研磨であり、④は小型金銅仏で鍍金が厚く全体の研磨が粗い。③は、全体の研磨程度は高くさらに正面は上半身のほうが高い。背面は下半身の程度が落ちる。蓮台はどの位置も程度が高い。六角台座は、程度が下がるが、仏像の稜線が丸いなか枠の稜線を幾分鋭くして仏像のまろやかさを強調している。⑥は、研磨程度が③と同程度で、極めて程度の高い研磨である。 東京国立博物館で、特別展の韓国国宝78号の金銅仏の研磨程度を調査した。前面、側面、背面、いずれも最高レベルに近く、背面上半身の衣文稜線に若干の乱れがある。特に面部の研磨程度は極めて高い。法隆寺夢違観音菩薩立よりも程度が高く、厳しく完成度を求めている。法隆寺橘夫人阿弥陀三尊像の面部と78号面部は同程度であるが、78号の方が眉、鼻筋の稜線が意図的に丸められ、視覚的な柔らかさを強調している。衣文は薄肉づくりで、曲面的な体部、腕部などに軽やかにまとわりつくように表現しているが、背面の座面、椅子背面の文様は体部の衣文と明らかに異なり厚く、太いやや粗野な作りになっている。飛鳥・白鳳時代の金銅仏と類似する研磨であるが、78号金銅仏は、全体の制作・造形監修が明確で、その点において、造形的にまとまっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本国内の美術館、博物館が所蔵する金銅仏のなかから、昨年度の泉屋博古館蔵金銅仏に続き、根津美術館蔵金銅仏7点について3Dスキャンを実施し、点間距離17ミクロンの精細な形状データを入手した。今後、このデータを根津美術館等で管理し、多くの研究者が必要に応じてデータ活用できることは、目視による印象表現で形状を分析・研究する段階から科学的な形状データを共通言語として広く客観的に議論できるようになった。この点において、研究進展に寄与できたと判断している。薬師寺聖観音菩薩像、法隆寺夢違観音菩薩像に続き、法隆寺阿弥陀三尊像(伝橘夫人念持仏)と泉屋博古館蔵太和22年銘金銅仏の切削研磨程度・造形調査の論文をまとめ、アジア鋳造技術史学会誌に投稿準備が終了し、査読を経て平成29年度内に発行の予定である。特に前者の論文は、切削研磨程度の詳細な程度評価点が含まれ、青銅作品の実制作者の立場から、造形の監修・統括の下の制作に触れ、厨子、蓮池、後屏を含めた三尊像の空間構想に議論を広げた。特別展示中の観察調査ではあったが、韓国国宝78号金銅仏の研磨程度、造形構想と法隆寺阿弥陀三尊像のそれらを比較できた点も重要であった。鋳造作品制作者と仏教美術研究者の共著によって、新規的視点で学際的研究を進めた。これらの点から進捗状況を判定した。
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今後の研究の推進方策 |
東京国立博物館法隆寺宝物館の四十八体仏の3D計測を東京国立博物館に継続打診し、研究者共有の3D計測データを入手する計画である。これまで計測した泉屋博古館、根津美術館蔵金銅仏で論文未発表のものについて論文発表する。論文にまとめた法隆寺阿弥陀三尊像によって、さらに監修・統括者の存在が明確となり、これまでの視点を広げて、造形の全体構想の読み解きをおこないたい。日本では奈良時代以前の金銅仏調査を中心としているが、江戸時代の丈六の青銅如来坐像の研磨にも評価調査をおこない、監修意識の変遷を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
かつて実施した根津美術館での青銅器の3D計測を前例に、金銅仏の3D計測においても、重要美術品の金銅仏を扱うため、日本通運などの美術品扱い専門業者を雇いあげるものと考えて予算を計画していたが、いずれの金銅仏も小品であるために、根津美術館の学芸員が専属で扱ってくれたため、執行しなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の平成29年度に加えて、合計59万円を、金銅仏調査旅費や論文で用いる図をイラストレーターなどで作図する人件費などに充てる。
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