研究課題/領域番号 |
15K12839
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
安川 晴基 名古屋大学, 文学研究科, 准教授 (60581139)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 記憶 / ドイツ / ベルリン / ナチズム / ホロコースト / モニュメント / インスタレーション / ミュージアム |
研究実績の概要 |
本研究は、冷戦終結後の1990年代以降、ドイツと日本で、ファシズム・戦争・ジェノサイドといった自国の負の記憶が、いかに空間的なシンボルに変換され、社会的に共有されているかを、ミュージアム・モニュメント・インスタレーションなどのメディアを分析することで、明らかにすることを目的としている。2015年度は、主に、1990年以降のベルリンに誕生した、ホロコーストをテーマとするモニュメント、インスタレーション、ミュージアムを対象として、文献の調査と収集ならびにフィールドワークを行ない、次の成果を得た。 (1)論文「ホロコーストの想起と空間実践」では、1990年代と2000年代に、ベルリンの各地区にローカルなレベルで建てられたモニュメントやインスタレーションの成立過程と空間デザインを調べ、それらを、中心化されたコメモラシンの形式(例えば「ホロコースト警告碑」)に対するアンチテーゼとして位置づけ、想起の空間を脱中心的に再編成しようとするそれらの空間戦略を分析した。 (2)論文「個別と遍在のはざまで」では、ドイツの芸術家グンター・デムニヒが1990年代に開始し、現在、ドイツの国境を越えて近隣諸国にまで広がっている「躓きの石」のプロジェクトを調べた。ホロコーストの犠牲者の名前を、彼らが生前に暮らしていた建物の前の路上に埋めていく、この市民参加型のプロジェクトを、パフォーマンス論の観点で分析し、その革新性と問題点を批判的に考察した。 (3)上記の個々の事例の調査と並行して、再統一後ドイツの「想起の文化」に関する理論的研究も行なった。その成果の一つとして、アライダ・アスマンの論文「トラウマ的な過去と付き合うための四つのモデル」を翻訳し、学術誌に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」に述べたとおり、2015年度は、ドイツ・ベルリンを中心にして資料調査とフィールドワークを行ない、その成果を論文2点、翻訳1点の形で公表することができた。また、学術誌『思想』(2015年8月号)の特集「想起の文化:戦争の記憶を問い直す」に、ゲストエディターおよび寄稿者として参加した。この企画を通じて、他分野の研究者と交流することができ、本研究プロジェクトを進めるにあたり有意義な、新しい知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2015年度に引き続き、2016年度は、ドイツの想起のプロジェクトをさらに調査する。具体的には、シュテイー/シュノックのインスタレーション「想起の場」や、これに関連して、ベルリンのテンペルホーフ=シェーネベルク区の市民が主体となった、ナチス犯罪を想起する諸々の社会的取り組みを調べる。また、ドイツ・オスナブリュックにあるフェリックス・ヌスバウム美術館の現地調査も予定している。2016年度の成果を論文にまとめて学術誌に発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年度は研究計画を一部変更した。当初の計画では、2015年8月と翌年3月に、ドイツでフィールドワークを行なう予定だった。しかし、研究代表者の所属機関から助成金を得て、2015年11月にベルリン自由大学で開催されたワークショップに参加することになった。そのため、第1回の現地調査を2015年5月に、第2回の現地調査を11月に行ない、この第2回の現地調査の渡航費に、所属機関からの助成金を充てた。そのため、当初旅費として計上していた予算に残余が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
2016年度はドイツでのフィールドワークを大幅に拡充する予定である。その渡航費に前年度の残余分を充てる。
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