研究課題/領域番号 |
15K12839
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
安川 晴基 名古屋大学, 文学研究科, 准教授 (60581139)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 記憶 / 歴史 / ドイツ / ベルリン / ホロコースト / モニュメント / ミュージアム / インスタレーション |
研究実績の概要 |
本研究は、ポスト冷戦時代の1990年代以降、ドイツと日本で、ファシズム・戦争・ホロコーストといった自国のトラウマ的な過去が、公共空間でいかなるシンボルを与えられ、社会的に共有可能な形に変換されているか、そして、それらの「記憶の場」を介して、いかなる新たな集合的アイデンティティが構想されているかを、両国のミュージアム、モニュメント、空間インスタレーションなどの調査と比較を通じて、明らかにすることを目的としている。2016年度の研究実績の概要を以下に挙げる。 (1)2015年度に引き続き、主として、壁崩壊後のベルリンに作られた、ナチズムとホロコーストの過去をテーマとするモニュメント、ミュージアム、空間インスタレーションを対象にしてフィールドワークと文献調査を行なった。また、沖縄県糸満市に散在する沖縄戦跡の実地踏査と資料収集を行なった。 (2)これらのフィールドワークと並行して、本プロジェクトの理論的支柱の一つをなす、アライダ・アスマンとヤン・アスマンの「文化的記憶」のコンセプトについて研究を継続した。その成果として、ヤン・アスマンの主著の一つである『エジプト人モーセ:ある記憶痕跡の解読』を翻訳し、出版した。刊行に際して、「文化的記憶」のコンセプトの概要と、それに基づく「記憶史」の構想について、詳細な解説を付した。 (3)上記の成果と関連して、2017年2月に研究代表者の所属機関で公開セミナーを開催し、「文化的記憶」の理論の意義と、文化学にとってそれが有する射程について、参加者と意見を交わした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」に述べたとおり、2016年度は、ベルリンと沖縄を中心にして、モニュメント、ミュージアム、インスタレーション、戦跡の実地踏査と文献調査を行ない、論文を執筆するうえで有益な資料を得ることができた。また、理論的研究の成果として、ヤン・アスマン『エジプト人モーセ』を藤原書店より刊行し、これに関連した公開セミナーを開催することで、他分野のさまざまな研究者と交流することができ、本プロジェクトを進めるにあたり有意義な知見を得た。
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今後の研究の推進方策 |
2016年度に引き続き、2017年度は、ドイツと日本における、ファシズム・戦争・ホロコーストに関連する「記憶の場」をさらに調査する。調査を予定しているのは、ハンブルクの「ハールブルク反ファシズム警告碑」、ザールブリュッケンの「反人種差別警告碑」などの一連の「カウンターモニュメント」や、オスナブリュックのフェリックス・ヌスバウム美術館などである。これらの成果を口頭発表や学術論文の形で公表する。具体的には、2017年9月にソウルで開催予定の国際セミナーで、1990年代以降のベルリンに誕生した、市民運動が主体となった一連の空間インスタレーションに関する研究成果を発表する予定である。また、戦後ドイツの「想起の文化」の理論的研究をさらに継続し、その成果を翻訳出版の形で公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年度に、ドイツと日本での比較的長期にわたる調査研究を予定しており、そのための旅費を次年度に残した。
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次年度使用額の使用計画 |
2017年度はドイツと日本でのフィールドワークを拡充する。また、2017年9月にソウルで開催予定の国際セミナーで発表する。それらの渡航費に前年度の残余分を充てる。
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