本研究は、冷戦が終結した1990年代以降、ドイツと日本で、ファシズム・戦争・ジェノサイドをめぐる自国のトラウマ的な記憶が、公共空間においていかなる可視的なシンボルを与えられ、社会的に共有可能な形に翻訳されているかを、そして、それらのシンボルを介して、いかなる集合的アイデンティティが構想されているかを、両国のミュージアム、モニュメント、インスタレーションの比較を通じて明らかにすることを目的としている。2017年度の研究実績の概要を以下に挙げる。 (1)2016年度に引き続き、主にドイツにてフィールドワークを行なった。2017年度の前半期はカッセル、ミュンスター、オスナブリュックにて、ナチズムとホロコーストをテーマとするモニュメント、ミュージアム、空間インスタレーションの実地踏査と文献調査を行なった。2017年度の下半期はベルリンの記録センター「テロルのトポグラフィー」にて関連資料を収集した。 (2)これらのフィールドワークと並行して、再統一後のドイツの「想起の文化」に関する理論的研究を行なった。その一環として、アライダ・アスマンの著書『想起の空間:忘却から対話へ(仮題)』の翻訳を行ない、再統一後のドイツにおけるナチズムの過去の自己批判的な想起の実践について解説を書いた。この成果は2018年度中に岩波書店から単行本として刊行する予定である。
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