研究課題/領域番号 |
15K12846
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
鳥井 珠子 (秋山珠子) 立教大学, ランゲージセンター, 教育講師 (80422385)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 中国 / 映画 / ドキュメンタリー / インディペンデント映画 / アサイラム / 文化形成 / 現代美術 / 非公的文化 |
研究実績の概要 |
(概要と意義)2017年3月から中国では電影産業促進法(映画法)の施行という、本研究開始時には予測し得なかった政策変更が行われ、これまでグレーゾーンにあった検閲未通過作品の制作・流通は厳しく規制された。本年度はとくに、この急変の実態把握に緊要性と重要性を認め、以下の調査・研究を行なった。調査により、中国インディペンデント・ドキュメンタリーのアサイラムの収縮と他領域との融合・移行状況という新たな状況について以下の知見が得られた。 (調査)中国では、宋荘及び栗憲庭電影基金(北京)、太原及び平遥映画祭(山西)にて調査を行い、平遥でのジャ・ジャンクー監督インタビューを『Studio Voice』に掲載した。また欧州では、王兵特集が組まれたカッセル・ドクメンタ、艾未未(アイ・ウェイウェイ)スタジオ(ベルリン)、ベネチア・ビエンナーレにて関係者インタビューと資料収集を行ない、アサイラムの国外及び他領域への移行状況を調査した。 日本国内では、複数の映画祭、演劇公演及び美術展において調査及びインタビューを行い、うち、作品「夜」が日本で舞台化されたクィア映画製作者である周豪監督との対談は記録集が発行された。 (国際共同研究)山形国際ドキュメンタリー映画祭において、王我・徐辛・蘇青・米娜・郭暁東・沙青の各監督を招いた大規模ディスカッションを組織し、また同映画祭の佐藤真監督特集では、中国から見た佐藤監督について章夢奇監督・徐辛監督とともに招待講演・討議を行った。また、複数のドキュメンタリーの被写体となった作家・張先痴氏を招聘した国際研究集会と上映会を共催し、複数の歴史ナラティブについての報告を行った。さらに、立教大学において、グラフィック・デザイナーとしても活躍する王我監督を招いたシンポジウムと上映会を行い、ドキュメンタリーと美術との関連について発表し、国内外の専門家を交えたディスカッションを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述のように、2017年度の映画法の施行により、これまで黙認されていた検閲未通過作品の制作・流通は、法的に厳しく規制されることになり、中国インディペンデント・ドキュメンタリーのアサイラムは極端な収縮と沈滞局面を迎えることとなった。その急変の中、2017年度に実施した国内外での調査により、中国インディペンデント・ドキュメンタリーのアサイラムにおいて、以下の複数の現象が複合的・重層的に進行しつつあることが確認された。すなわち、1) 作品制作の停止、2) 小スペース・地方都市での上映機会の探索、3) 検閲の受け入れと主流文化への参入、4) 他分野(現代美術、舞台芸術など)との融合・移行、5) 亡命または国外への拠点移動―である。 こうした諸事象は、規制強化により、中国インディペンデント映画に関する公開情報が極端に制限されている現在、本研究が行った現地調査によって初めて明らかになったものであり、当該アサイラムの衰微、及び代替アサイラムへの遷移を示唆する重要な現象である。 現在急激に進行しつつある変化の実態を見極めることを目的とし、研究期間を1年延長したが、これまでの調査研究で得られた知見は予期以上のものであり、これらの分析を通して、中国インディペンデント・ドキュメンタリーの包括的な歴史と非公的文化の生成の機制を、他領域を含んだマクロな視点から描く可能性が増大したことに鑑み、本研究課題はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
2017年3月の映画法施行により、中国インディペンデント映画をめぐる状況は一変し、進行する事象を滞りなく調査するため、先述の通り、調査のため研究期間の延長を行なった。 次年度は、公開情報が極度に制限される中国インディペンデント・ドキュメンタリーの生成と流通の新たな実態を、中国及び中国国外における調査及びインタビューによって検証するほか、これまでの成果をDocumentary Film, Reginal, Theoretical and Political Parameters(香港浸会大学)、Crossroads 2018(上海大学)等の国際学会で発表し、専門家からフィードバックを得つつ、非公的文化形成のアサイラムの特徴と遷移過程を論文にまとめる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)前述の通り、2017年3月に施行された映画法により、中国インディペンデント映画をめぐる状況は一変した。その急変の実態を遅滞なく調査するため研究期間を延長し、予定の資料の購入を中止し、次年度の調査費用に充てることとした。 (使用計画)中国国内における調査及びインタビューを行う。具体的には、平遥電影節(山西)、草原電影工作坊(内蒙古)を予定している。
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備考 |
三宅優、秋山珠子、周豪『夜 CROSSING POINT』(「舞台『夜』と中国映画『The Night』の交点」パンフレット)、2017年
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