研究実績の概要 |
本研究は、東アジアにおいてトランスナショナルに文化・芸術が流通している現象につき、それを推進(または抑制)する経済的背景、文化政策的要因を分析することを通じ、文化の質的変容と社会における相互理解の進展を検討するものである。従来の人文学研究では、文化の内容そのもの、あるいはその「受容、消費」を中心とし、その背景にある芸術・文化産業の経済的・産業的特徴、企業の経営・マーケティング戦略、文化政策への考察は不足している。本研究は、文化政策、文化産業、グローバル文化を専門とする国際的研究チームにより文化フローの形成要因を明らかにし、文化と社会の変容に迫ることを目的に京都、ソウル、ロンドンで会議を続けた。もっとも重要な研究成果として、共著書(Kawashima and Lee eds, Asian Cultural Flows, Springer, 2018)を刊行した。アジアにおける日本や韓国のポピュラー文化普及については、従来は、カルチュラル・スタディーズ、批判的メディア学の視点から論じられてきたが、産業や文化政策が文化のフローに対して果たした役割を論じるものはほとんどなかった。産業面から分析した先行研究では、特に文化政策への視点には欠けていた。本書では特に、クール・ジャパン戦略を掲げつつも文化政策に不熱心な日本、1990年代後半より文化政策を大幅に増強し海外展開を図り始めた韓国、海外からの文化流入に一定の歯止めをかける中国など、発信・受信国の多様な文化政策が、海外発信力のある文化の「生産」とそのフロー(流通)にどのような影響を持つのかを分析し、文化の越境・グローバル化を論じた点、大きな意義を持つものと考えられる。英文での出版であり、日本国内でどのように読まれるかはわからないが、国際的な出版社より出しており、ウェブ検索で各章にもあたるように設計されているので、今後影響力を持って行くことが期待できる。
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