研究課題/領域番号 |
15K12849
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
渡辺 麻里子 弘前大学, 人文学部, 教授 (30431430)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 記家文字 / 叡山文庫 / 華蔵院 / 池田蔵本 / 天台宗 / くずし字 |
研究実績の概要 |
平成二十七年度は、天台宗記家文字資料の典型的な例についての調査および撮影を行った。まず天台宗比叡山寺院の聖教を集めた叡山文庫にて調査を行い、華蔵院蔵本および池田蔵本について、複写も行った。調査は順調に進んだが、予定した書目全てについての調査は終了できなかった。予定していた書目を調査している中で、予定書目の他に、記家文字文献を考える上で注目されるべき文献として、叡山文庫戒光院蔵『三大部見聞述聞』を見出すことができた。この本を分析するために、毘沙門堂蔵『三大部述聞見聞目録』や、生源寺蔵『本書見聞述聞并巻数目録』の調査を進めた。本書についての分析結果とその成果は、平成二十七年度天台教学大会(学会)において口頭発表を行った。予定外の成果が得られたのは、良い展開であった。 予定していた書目で調査未了となった書目については、平成二十八年度に、叡山文庫双厳院蔵本および仏乗院本の調査と合わせて調査を実施することとする。 また三年目に予定していた他宗の文献について、先行して調査をする機会が得られた。高野山光台院においての、資料調査研究を行った。高野山光台院は、高野山大学図書館に全蔵寄託ではなく、一部経典は、経蔵に所蔵されている。それらの典籍について、調査の上、撮影収集することができた。この調査は平成二十八年度も実施する予定である。 初年度の成果として、上記の成果の他に、同書目の別伝本において文字を比較することが、より成果として有効であることが判明した。また、計画では仏書のみに絞って比較する予定であったが、記家文字の分析には、文学作品などとの比較も有効であることが判明した。平成二十八年度は引き続きこれらの方法を用いた分析を引き続き行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、初年度の平成二十七年度は、比叡山諸寺の蔵書を集めた叡山文庫において、華蔵院蔵本および池田蔵本についての調査予定書目について、調査を終える予定であったが、その調査および複写収集は終了しなかった。また一部書目は、調査はできたが分析までには至らなかった。 特に、『法華経』の注釈書関係や『三大部』の注釈関係については、予定していた書目はおおむね終了できたが、表白・講式関係書目についての収集は完了しなかった。また別途、論義関係書目を調査対象とした方がよいと判断される成果が得られた。次年度以降はこれらの成果を踏まえて、調査収集書目の追加変更を行った方がよいと考えている。 また、三大部関係書目を調査する中で、叡山文庫戒光院蔵『三大部見聞述聞目録』などといった、注目される文献を見いだすことができた。この予定外の成果は、天台宗の記家文字文献の一つとして平成二十七年度天台宗教学大会において発表するに至った。 また三年目に予定していた他宗における記家文字文献の調査として、真言宗の高野山光台院の文献資料調査を予定に先行して行うことができた。 以上をまとめると、当初初年度に計画した叡山文庫蔵本の調査について、計画通りに進まなかった面もあるが、三年目に予定した他宗における文献調査を予定より先行して行えたことや、『法華経』や『三大部』の注釈について、叡山文庫の中でも戒光院蔵本や生源寺蔵本について予定外の成果が得られたことを加味して、全体として「おおむね順調」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成二十八年度は、第一に、天台宗寺院の典型的な記家文字資料として、予定していた叡山文庫華蔵院蔵本および池田蔵本の調査収集を行い、分析を終える。調査が及ばなかった表白・講式などの調査を実施する。また論義関係書目を調査対象に加える。 第二に、予定通り、叡山文庫の他蔵本、特に双厳院本および仏乗院本について調査を行い、応用的な記家文字の分析を行う。昨年度、同書目の別伝本による比較の効果が確かめられたことと、論義関係書目が記家文字分析に効果が得られることが判明したため、調査収集書目については、より精査し検討を加えつつ調査を進める。今年度も成果を学会等で公表し、広く意見を求めるようにする。 第三に、三年目に予定していた他宗の文献調査について、真言宗の高野山光台院においても今年度の調査が可能となったため、予定に先行して調査を行うこととし、調査収集に平行して、分析も進めていくこととする。 第四に、昨年の成果として、仏教書以外の文献との比較も有効と判断されたため、近世初期の文学関係資料の調査も進め、分析対象に加えることとする。文学関係資料については、寺院所蔵本でないものであっても、資料の状態によっては調査の対象に加える。 また来年度に分析結果を冊子化またはWEB公開することを見据えて、試験版の作成を開始する。特に、計画している「草用/略字/異体字/造字」の区分が有効であるのかについて、分析を進める。できれば試験版を公開し、広く意見を求めるようにする。
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