2018年度は、研究の完成期と位置づけ、主に以下の3点について、研究のとりまとめと、本研究課題で得られた成果の公表を行った。この他、本研究の視野を広げ、問題意識を深化させることを目的に、韓国・高麗大学で開催されたAAS in Asia 2017 に参加、「戦争の表象」「戦争の記憶と植民地主義」をテーマとする研究者との国際的な交流を深めた。 (1) 日中戦争の同時代に中国での戦争・戦場がどのように表象されたかをテーマに、単行書『プロパガンダの文学 日中戦争下の表現者たち』(共和国、2018年5月末刊行予定)を上梓した。同書においては、日中開戦後の軍・政府による言説やイメージにかかる統制の法的・制度的な動向を踏まえ、戦争や戦場を描くテクストにどのような役割が期待されたかを論じた。合わせて、厳しい検閲体制下にあっても、それらのテクストには軍や政府の意図や思惑を超え出る契機が存在することを指摘した。 (2) 前年度からの継続的な研究として、日本敗戦後のメディアにおける日中戦争表象について、検討を進めた。とくに、1938年の初出発表時に、南京事件を想起させる内容を描いたとして発売禁止処分を受けた石川達三『生きてゐる兵隊』の戦後における受容に注目、GHQ国際検察局資料内の石川達三の尋問記録等も参照しながら、中国戦線での加害の記憶が、敗戦後のメディアでどう語られたかについて、具体的な検討を行った。 (3) 戦後における日中戦争表象の一類型として〈メロドラマ〉的な物語に注目、関連するテクストや資料の集積と分析を行った。また、日中戦争期・アジア太平洋戦争期の日本における「大陸文学」「大陸映画」をこの種のテクストの源流として位置づけたうえで、異性愛を基本とするメロドラマの構図と、戦時・戦後日本の人種主義的な体制との相関とズレに注目し、考究を深化させた。
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