本研究は、近世日本における「書」の領域に関わる知識の生成と流通・定着の様相を探り、「書」の習得とその伝書の流通を通して伝えられた様々な知識の他分野の論書との関係性の解明とその歴史的、社会的意義に関する検討を行ない、併せて人文科学領域の分析対象としての入木道伝書の定位を行うことを目的として研究を進めた。 研究の基盤となる基礎作業としては下記2点を行った。①国文学研究資料館所蔵に蓄積されたマイクロフィルム資料を用いて、江戸時代に版行された入木道資料の調査とその書誌学的情報を含むメタデータのリスト化を行った。②徳川御三卿のひとつ田安徳川家に伝えられた「書」の伝書である入木道(じゅぼくどう)伝書167 点( 世尊寺流50 点、持明院流117 点、国文学研究資料館蔵)の個別の資料調査を行い、それらの内容の同定を行った。 上記資料を基礎的素材として下記2点を中心に内容の分析とそこから導かれる研究手法の探求を行った。①入木道伝書及び和歌・茶道・画論などの隣接領域の伝書との発想・語彙・用例等につき、その伝書の伝来過程の歌学伝授との関連性の検討、近世期における伝書の収集と現行のまとまりとの関係性の検討、「灌頂」を頂点とする歌学伝授のシステムと連続性の確認などの比較検討を行った。②書流の伝承者とその書に関する関与(修学、伝授、鑑定、販売等)について、米国に所在する資料を用いて共同の検討を行うことを通して、「書」の領域における国際的共同研究に関する手法の探求を行った。
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