平成29年度は、過去2年間の研究活動を通して得られた研究成果を全体としてまとめあげた。主に以下の作業を進めた。 1.3年間の研究成果を論文集Samuel Beckett and traumaとして出版するための校正、索引作成などの最終作業を行った。この論文集はマンチェスター大学出版局から2018年6月に刊行予定である。 2.前年度に引き続き、小説、演劇、思想のセクションごとにトラウマと創造性の問題について、サミュエル・ベケットの作品を軸に研究を行った。田尻:第一次世界大戦が与えた衝撃とヴァージニア・ウルフの作品の関係、第二次世界大戦(特にホロコースト)のトラウマとベケットの演劇における人間表象の関係について考察し、それをSamuel Beckett and trauma所収の論文としてまとめた。他にイアン・マキュワン『土曜日』における9・11テロのトラウマについての論文を執筆した。堀:主としてベケットの戦後の戯曲において戦中戦後の作家自身の体験が普遍化されていく過程を探ることにより、今日なお戦争や環境破壊によってさまざまなかたちで被災した人びとの苦悩やトラウマ、人権侵害などわれわれが今まさに直面している問題を再考することができる。その一例としてベケットの代表作に焦点を当てた単著『改訂を重ねる「ゴドーを待ちながら」 演出家としてのベケット』を執筆したほか、ベケットの今日性を論じる2本の口頭発表を行なった。対馬:様々なトラウマ的現実に直面している現代世界とベケット作品との関係について考える試みとして、ベケットにおける想像力とはいかなるものかについてブランショの文学論やドゥルーズの映画論を参照しながら考察した。この考察にもとづいて学会で発表を行い、論文を執筆した。
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