本年の研究成果として、以下の3つが特に重要である。(1)ダニエル・デフォー『ペストの記憶』(1722年)の翻訳・解説の出版。(2)ジョージ・サルマナザール『台湾史』(1704年)を人類学研究の最新成果を取り入れつつ分析し、18世紀イギリスのフィクションのあり方を問い直す研究(3)ローレンス・スターン『トリストラム・シャンディ』(1759-67年)における詩学を抽出し、近代文学史の原理を再構築する研究。 (1)については、2017年9月に研究社から刊行された訳書の解説(349-65)で、『ペストの記憶』という作品が、すでに近代初期において市民が市民を統治するという自律的権力の問題を生々しく描いていることを指摘した。これは自由な個人が欲望をいかに制御するか、という問題から近代小説を読み直すという、本研究の視点を公権力の領域に応用したものである。(2)については、2017年5月20日の日本英文学会第89回大会でのシンポジウム「身体・人種・人間─英語圏文学研究の人類学的転回」(武田将明、小川公代、梶原克教、春日直樹)における武田の発表において明示された。18世紀の散文フィクションが多くの虚偽(deception)にまみれていたことから、事実の表象(representation)ではなく先行する情報の変容(transformation)として18世紀フィクションを捉え直すことを提案した。着想にあたり、人類学者エドゥアルド・ヴィヴェイロス・デ・カストロ(および彼の紹介するレヴィ=ストロースやドゥルーズ/ガタリ)の著作が役に立った。(3)については、2018年3月刊行の『ローレンス・スターンの世界』所収の拙論等で展開した。スターンにおける反古典主義的な詩学を解説することで、本研究の「欲望と差異の詩学」への理解を深めた。 これらの研究と関連し、他にも多数の研究発表・論考執筆を行った。
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