研究課題/領域番号 |
15K12857
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
大野 瀬津子 九州工業大学, 大学院工学研究院, 准教授 (50380720)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 大学小説 / 感傷小説研究史 |
研究実績の概要 |
1. 本プロジェクトの基盤作りとして、感傷小説の先行研究について論文にまとめ、投稿した。同論稿では、以下の2点を明らかにした。(1)先行研究は、センチメンタリズムを女性性あるいは男性性と結びつけ、男女の性差に基づく価値を全面に打ち出して作品を評価してきた。(2)先行研究がジェンダーを争点とするアプローチを反復再生産してきた理由は、「キャノンから女性作家が排除されてきた」ことを前提としてきたためである。 2. 上記論文に加筆・修正を加えた原稿を、第1回文芸共和国の会(2月27日 於九州工業大学)で口頭発表した。専門知を市井と共有することを目的としたこの会での発表を通じ、文学研究者はもちろんのこと、他分野の研究者や市井の人々にも広く研究成果を発信することができた。フロアとの自由討論を通し、「キャノンからの女性作家の排除」という感傷小説研究の前提について問い直す必要性があることを確認できた。 3.ホーソーンの出身大学であるボードゥン大学の図書館に資料調査に行き、大学のカタログ、学生の手紙、卒業式でのスピーチ原稿、回想録など、数々の資料を入手した。これらの資料は『ファンショー』をはじめ、南北戦争前の大学小説全般を考察する際に活用する予定である。 4.日本ナサニエル・ホーソーン協会第34回全国大会に出席した。また、日本ナサニエル・ホーソーン協会九州支部研究会第59回と第60回の研究会、およびシンポジウムに参加した。研究者たちと交流を深め、ホーソーンや19世紀アメリカ文化について貴重な情報を得ることができた。なお、2016年度6月に同研究会で口頭発表することが決まっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
投稿論文と口頭発表を通じ、感傷小説の先行研究で合意されてきた「キャノンからの女性の排除」という前提を明らかにし、さらにはその前提に再考の余地があると認識できたことは、大きな収穫であった。また、日本ナサニエル・ホーソーン協会九州支部研究会に参加し、本課題の考察対象となるホーソーンについて、専門家たちから様々な知見を得た。予定していたボードゥン大学およびハーヴァード大学の図書館における資料調査については、調査先をボードゥン大学図書館に絞ることで、予想以上に多くの資料を収集することができた。 しかし、ボードゥン大学で入手した資料のトランスクリプトと分析に関しては、ほとんど進まなかった。感傷小説やアメリカ文学史についての先行研究を読むのに多くの時間を費やし、新しく入手した資料にまでなかなか手が回らなかったためである。しかし、感傷小説研究の全体像を把握しその前提を明らかにすることは、感傷小説研究とは別の系譜として大学小説研究を立ち上げるために不可欠な手続きであったと考えている。資料のトランスクリプトと分析については、28年度の課題とする。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の研究を通じ、大学小説の研究を開始する下準備として論じておくべき問題が明らかとなった。28年度は、その課題にまず取り組む。5月の九州アメリカ文学会第62回大会の口頭発表では、1980年代に発表された二本の論文を取り上げ、感傷小説研究で合意されてきた「キャノンからの女性の排除」という前提について問い直す。この発表では、両論文を書いた批評家たちが、社会的構築物としてキャノンを措定することで、現実社会を変革しようとしていたことを明らかにする。6月の日本ナサニエル・ホーソーン協会九州支部研究会の口頭発表では、F.O.マシーセンの『アメリカン・ルネッサンス』を考察対象に据え、感傷小説を文学史から排除した黒幕として批判されるマシーセンが、センチメンタルなものを排除していなかったことを明らかにする。二回の口頭発表を、28年度中に論文の形にまとめ、学会誌に投稿する。 これらの考察を通し、感傷小説に表れたセンチメンタリズムをジェンダーと結びつけ、キャノンの拡大というモデルに従って発展してきた感傷小説研究の問題点が明らかになる。この知見に基づき、本課題では、センチメンタリズムをジェンダーから切り離し、それを大学という問題系のなかに捉え直して、黎明期の大学小説を読んでいく。 夏季休業中は、マサチューセッツ州のAmerican Antiquarian Societyにて、南北戦争以前の大学小説諸作品および同時代の大学に関する一次資料を入手する。帰国後は、27年度、28年度に収集した資料のトランスクリプトと分析を進めつつ、『ファンショー』の精読にも取り掛かる。29年度には『ファンショー』およびその他の南北戦争以前の大学小説について、口頭発表と論文が形になるよう準備を進めておく。
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