明治・大正・昭和初期において活発化した日本英語文学の意義を検討するうえで、仏教関係者の果たした役割は大きい。西洋的思考の範囲を超える仏教の教えへの「恐れやオリエンタリズムによる否定的イメージを払しょくするために多くの英語著作がなされた。その中でも、岡倉天心の表象力の高さは際立っている。従来研究対象として焦点化されることのなかった岡倉天心の未公開オペラ原稿であるThe White Foxを19世紀後半から20世紀初頭の仏教改革の文脈において分析し、仏教改革への切迫感の原因となっていた西欧諸国における仏教への誤解、批判的見解への対抗的言説としての力をもつテクストであることを論じた論文を、ハワイ国際人文学会の抄録において発表した。また、国際共同研究者であるSt Norbert Collegeの鳥本准教授から同時期に著作活動を活発に行っていたOkina Kyuinについての研究成果について知識供与をうけ、仏教への見解についての違いについて意見交換を行うことができ、今後の課題につなげることができた。St Norbert大学において、岡倉天心の英語著作がいかに20世紀初頭のあめりかにおいて影響力をもったかについて講演を行い、同大学の日本文学、英文学、フランス文学研究者と意見交換をおこなうことができた。また、E. M. ForsterのA Passage to Indiaを上記の視点から見直し、改めて西洋キリスト教世界における「虚無」観との違いを確認し、仏教のNirvanaが誤解されたかの背景を検討した。
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