研究課題/領域番号 |
15K12862
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研究機関 | 奈良大学 |
研究代表者 |
石崎 一樹 奈良大学, 教養部, 教授 (70330751)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 教養 / 翻案 / SNS / インディーロック / ロックフェス |
研究実績の概要 |
本研究はアメリカのポピュラー音楽にこれまでにはない規模で顕在化する文学的想像力の実状と方法論を追求することを目的としている。今日的意味でのインディーロックにおいては、関連のアーティストが教養への志向性を持つのに加えて、彼らの作品が優れたロック音楽として標準化し、若者の知識欲を満たすツールとして機能している状況も見られる。つまり、教養主義はすでにロックの規定要件のひとつであり、そのなかでも文学的価値が重要な要件となっている。またこの状況は従来的な意味でのインディー的小規模活動に留まらず、大手音楽会社の商品や情報の流通規模が反映される事態に至っている。このことを背景とし、本研究は、影響力のある他の芸術ジャンルにおける文学的価値の可視的実状を積極的に分析し実証結果を示すことを意図している。 調査対象としているのがアメリカで開催されるロック・フェスティバル参加者のうち、インディーロックを主な目的とするオーディエンスである。金銭・労力面で敷居の高いフェスに参加し、複数のステージからアーティストを選択的に観るという強い動機に基づく彼らの行動は、このジャンルの音楽聴取者が持つ文学的教養についての外在化行動とみなすことができるため、参加者の教養や文学に対する考えについて意見聴取し、これを計量的・実証的なデータとして分析しつつ、同時に理論構築を試みる。これにより現代ポピュラー文化における教養や文学的想像力をめぐる現状の捉え直しを行い、文学的価値の再構築を目指す。 本研究のこうした目的を達成するために、平成27年度の主な活動として、10月にアメリカテキサス州オースティンで開催されたAustin City Limitsのオーディエンスに対する聞き取り調査と、論文「クールなインディー―アメリカのポピュラー音楽の現在―」の執筆を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、(1) 文学と大衆音楽の関係についての理論化作業、(2) ロック・フェスティバルでの意見聴取、(3) 公に対する研究成果の発表、の3つの活動を軸に進めていく計画である。平成27年については主に(1)と(2)の活動を中心に進め、(3)については次年度以降に充実させる方向である。三年間での実施を予定している本研究計画であるが、基本的な活動となるのはロックフェス来場者に対する聞き取り調査である。本年度のAustin City Limitsでの調査では、プライバシーに配慮する旨を伝えて調査の協力を依頼し、承諾を得た来場者のみに対して(原則会場のすぐ外側にて)氏名、年齢、職業、学歴、主な観覧予定のアーティスト、情報収集に活用するメディア、好きな作家などについて尋ねる聞き取り調査を行った。全体で約50名からの聞き取り調査を行い、本年度の調査から、大衆音楽聴取者と文学的教養の関係について一定の傾向が推定できる結果を得た。全体的な分析結果については完成年度にまとめることとするが、1年目の活動から、計画時における仮説が概ね正しいことが推察できる状況である。 また本研究においては、今日の社会における文学的価値の捉え直しをするための理論構築を行うことも目的としているが、この目的を遂行するための端初として、論文「クールなインディー―アメリカのポピュラー音楽の現在―」を執筆し、現代アメリカにおける音楽業界の構造を「インディーロック」を主眼において分析する試みを行った。また、アメリカの商業音楽産業の構造把握や、ポピュラー音楽を通じてアメリカ社会を理解するための取り組みの一環として、ジェイムズ・A・ミッチェルによるジョン・レノンの評伝『革命のジョン・レノン』を翻訳した。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度に引き続き28年度と29年度についても、上記実施計画の(1)、(2)、(3)の項目について具体的かつ継続的に遂行する予定である。現時点で決定している予定としては、平成28年7月にニューヨークで開催されるPanorama Music, Art and Technology、10月にはテキサス州オースティンでのAustin City Limitsにおいて、昨年度に続きフィールドワークを行う予定である。会場での聞き取り調査時の協力や、日本国内外でのアーティストや音楽業界関係者との会合のコーディネートなどに関する協力を、研究協力者で株式会社サムエコーズ代表取締役の斎藤悠哉氏から得ることで、研究がより実質的で意義深いものになるように努めている。また28年度からは、研究結果の公表をより具体的に進めることを念頭におきつつ、論文や書籍の執筆計画を行うことにしている。
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次年度使用額が生じた理由 |
3年での実施を計画している本研究の2年目にあたる平成28年度の活動で、旅費と物品費において当初予定していたよりも予算が多くかかることが予想されたことから、平成27年度の活動費を抑え、平成28年度で有効的に活用することで、研究成果をより実質的で意義深いものにできると判断したため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度はフィールドワークを行うロックフェスティバルを2回設定(ニューヨーク州とテキサス州)しているが、当初予定の平成28年度予算とあわせて、研究代表者ならびに研究協力者が本年度に予定している調査を適切に遂行できるものと考えている。
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