研究課題/領域番号 |
15K12865
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
藤井 たぎる 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 教授 (00165333)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | オペラ / 資本主義 / 権力 / 価値形態 / 恋愛形態 |
研究実績の概要 |
ワーグナーとリヒャルト・シュトラウスのオペラ作品の新演出上演をドイツ、オーストリアで視聴し、それぞれの演出家の作品読解から、オペラにおける恋愛表象がどのような役割を演じているのかについて、多くの示唆を得た。とくに2013年に新演出されたワーグナーの『ニーベルングの指環』で、演出家フランク・カストルフは、その所有者には世界を支配する力が与えられるとされる“指環”争奪の物語を、20世紀の石油をめぐる覇権争いとして読み替えている点が、ドイツにおける資本主義とオペラの関係を読み解くことを目的とする本研究課題にとっては有益であった。 さらにカストルフ演出では、主要登場人物の恋愛形態が、彼らの権力闘争と表裏一体になっていることが、ワーグナーの音楽とテキストのいたるところに散りばめられている暴力と恋愛の表象を執拗に強調することで、浮き彫りにされている。他方、モーツァルトのオペラ『コシ・ファン・トゥッテ』では、恋愛形態はむしろ価値形態と表裏一体となっている。そこでは愛は価値のように機能することを、フィオルディリージの二つのアリアを例に明らかにすることができた。 また、フィンランドの作曲家ユハ・コスキネンとドイツの音楽学者ユリア・シュレーダーを迎え、「オペラの昨日・今日・明日」と題したレクチャー&シンポジウムを催すとともに、そのときの基調講演や口頭発表をもとに冊子『オペラの昨日・今日・明日』を編纂した。コスキネンは創作者の視点からオペラというジャンルの魅力とその可能性について論じ、シュレーダーはハープという楽器を通して、オペラ史を振り返りながら、ハープがオペラのなかでどのようにフィーチャーされてきたかを詳述した。いずれからもオペラの歴史的・社会的な役割について、有益な知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
愛知県立芸術大学音楽学部作曲専攻との共同企画によって、フィンランドの作曲家ユハ・コスキネンとドイツの音楽学者ユリア・シュレーダーを迎え、シンポジウム「オペラの昨日・今日・明日」を実施することができた。 またドイツ、オーストリアで比較的新しい演出による上演を視聴し、有益な知見を得ることができた。 マルクスの価値形態論とオペラの恋愛形態との相関性を、モーツァルトの『コシ・ファン・トウゥッテ』を例に明らかにすることできた。
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今後の研究の推進方策 |
ワーグナーの楽劇についての考察を、マルクスによる〈資本形態〉の分析と関連させながら行う。トリスタン和声と呼ばれる半音階的進行によってもたらされる〈無限旋律〉は、伝統的な三和音による和声進行よりもはるかに自由な媒介機能を持つ。ワーグナーによる調的和声システムの拡張の試みが、資本、価値、権力(暴力)、恋愛のモチーフとどのように交わるのかを、アドルノ、バディウ、ジジェク、ダールハウスらのワーグナーに関する議論を踏まえ、さらにドイツ、オーストリアで比較的新しい演出による上演も参照しながら、おもに『ニーベルングの指環』の音楽と台本から具体的に解明していく予定である。
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