研究実績の概要 |
第二次大戦期のスイスのラジオニュース「世界クロニクル(Weltchronik)」、および番組のテクスト作成者兼キャスターであった歴史学者J. R. フォン・ザーリス(von Salis, 1901-1996)の言説と行動の持つ文化政治史的意義を、愛国的文化運動「精神的国土防衛」との関係において捉えること、およびこれを通して、スイス本国においてすら十分に研究されていない、大戦期スイスのプロパガンダ戦略の一端を明らかにした。 まず最初に、「世界クロニクル」に関する先行研究を収集し、問題の布置を確認し、研究の領域の輪郭を明確にした。 二年目は、スイス国立図書館に付設されたスイス文学アーカイブに保存された、フォン・ザーリス関連の資料のうち、「世界クロニクル」の放送原稿を1966年に出版された書籍版と比較し、書籍版に収録された原稿と割愛された原稿の関連を確認した。 三年目、放送原稿に書き込まれた、ベルンの軍当局による検閲の痕跡をたどることで、放送原稿の生成のプロセスを解明した。さらに、フォン・ザーリスに宛てたリスナーからの手紙の分析も部分的に行った。 研究の成果は、研究代表者が主催している「スイス科研研究会」において報告し、さらに三篇の論文にまとめた。一篇は「世界クロニクル」の背景にある「精神国土防衛」の政治的位置を解明したものである。二篇目はスイス文学アーカイブのフォン・ザーリス関連資料の文化史的位置付けを論じたものであり、本プロジェクトの輪郭を明確にするために執筆された。もう一篇は、「世界クロニクル」のテクストとしての特徴を、間テクスト性の観点から明らかにしたものであり、さらに今年度は日本国際文化学会においてプロジェクト全体のまとめとなる報告を行う。放送原稿の精密な内容分析については、「スイス科研研究会」で口頭発表する。
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