研究実績の概要 |
本研究は、文学作品とモニュメントの比較検討を通じて死者の記憶の表象のあり方を考えるという研究目的を掲げている。その初年度となる2015年度の前半期(4~9月)は、研究計画にもあげたジョアン・ミシェル『記憶の統治』(Johann Michel, Gouverner les memoires:les politiques memorielles en France, P.U.F., 2010)に加えてポール・リクール(Paul Ricoeur, La memoire, l’histoire, l’oubli, Editions du Seuil, 2000)、さらには両著作がともに参照するアンリ・ルッソ『ヴィシー・シンドローム』(Henri Rousso, Le syndrome de Vichy : de 1944 a nos jours, Editions du Seuil, 1987 et 1990)を発見し、コーパスと視野の拡大につとめた。その結果、大戦中を負の記憶としている点において日仏が共通の問題意識を有していること着目し、予備調査として日本では死者についての記憶がどのように継承されているかを分析し、それを論文にまとめた。 また、後半期には、幸い、本務校の海外研修と重なったため、フランスに長期滞在して、モニュメントと文献の調査を現地で進めることができた。その際、現実世界では大規模なテロ事件が発生し、その犠牲者たちのために共和国広場が一時的に国家の霊廟となり、アンヴァリッドが追悼施設と化すなどの現象を観察することとなった。それについても記事として発表を行った。さらに、研究計画にあげた死者の顕彰施設の調査も行いながら、学作品に現れる死者についての生者の証言をめぐって、バタイユが戦後まもない1950年に発表した『C神父』の詳細なテクスト分析を行い論文としてまとめた。
|