本研究は、文学作品とモニュメントの比較検討を通じて死者の記憶の表象のあり方を考えるという研究目的を掲げている。その最終年度となる本年においては、死者の記憶に対する態度について、文学作品とモニュメントとの共通点と相違点を明確にし、研究全体に結論を与えることに務めた。そのために、①これまでに調査したモニュメント、展示施設、文学作品を整理し直し、②資料が不十分なものに関しては現地で再調査を行い(ニースの2016年7月14日のニースのテロ事件追悼碑)、③文献の収集と整理を行った。 これまでの研究からは、死者に対する記憶の扱い方に関して、モニュメントや展示施設は彼らの記憶を実証的に語ることを目指すのに対して、文学はむしろその困難を語る(G. バタイユ『C神父』)という仮説を得るにいたった。また、前者が実証的に語るとは言っても、国家や国民のアイデンティティの「鏡像」という役割を持っている以上、時代の要請によってその内容は容易に方向を変化させうる(リヨン・レジスタンス強制収容歴史センター)ということがわかっている。 本年は、こうした成果を活かして、これまで調査した資料全体の整理および再調査を行ったが、その課程で研究の方法と今後の方向を確立することができた。一つは、正確な比較のためには、記憶の対象となっている「死者」たちを限定すること(例えば、第一次世界大戦、第二次世界大戦、レジスタンス、アルジェリア戦争といったかたちでの限定)が必要であるということがわかった。また、今後の方向として、この問題について考え、それが21世紀も現在性を持つ研究であるためには、文学、モニュメントだけでなく、虚構的ないしはドキュメンタリー的な枠組みで制作される映画作品についても、検討することが必須であるという展望を得るにいたった。
|