研究課題/領域番号 |
15K12868
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
宮嵜 克裕 同志社大学, 公私立大学の部局等, 助教 (00411075)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | マラルメ / 半獣神 / 生成論 / 文体論 / 発話 / 発話行為 / ディスクール / 指示詞 |
研究実績の概要 |
本研究は、マラルメの『半獣神の午後』と『イジチュール』の自筆草稿を再検討し、国内外で初めて生成論の立場から、その生成プロセスの解明とディプロマティック版の作成を試み、さらに、発話行為論的アプローチによる草稿の緻密な分析を通して、詩人による内的ディスクールの表象様態を考察することを主たる目的としている。本研究の結果、両作品における文学技法の新たな側面が照射されることが期待される。 平成27年度は、(1)生成論的アプローチの理論的再検討と文体論・発話行為論の主要概念の分類・整理、(2)マラルメ『半獣神』草稿群の調査とディプロマティック版による翻刻、(3)『半獣神』草稿群の発話行為論的観点からの分析等に主眼が置かれた。 (1)では、特にR.-D.ジュネット、J.ネーフ、A.ピエロ、P.-M.ド・ビアジ、吉田城、吉川一義、松澤和宏等、フローベールやプルースト研究における重要な生成研究を検討し、その生成論的アプローチの有効性と限界を考察するとともに、マラルメ生成論研究への応用可能性を模索した。それと平行して、バンヴェニスト、バフチン、 クレベール、デュクロ、ラバテル等の言語理論の徹底的な読み直しを図り、その言語学的概念を分類・整理するともに、諸概念間の関係性をも考察した。 (2)に関しては、11月末に1週間パリに滞在し、J・ドゥーセ文学図書館にてマラルメ『半獣神』自筆草稿をマルシャル批評校訂版と照合しながら、そのディプロマティック版による翻刻を試みた。なお、この調査中に、マルシャル批評校訂版には全く転写されていない未発表草稿を1葉発見することができたことも付言しておく。 (3)に関しては、(2)の草稿調査のデータを基にして、発話行為論的視座から加筆修正された草稿を解析することによって、『半獣神』のテクスト生成過程を解明する予定であったが、現在も進行中であり、未完の段階である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記(1)の作業に関しては、主としてクレベールのフランス語指示詞と連想照応の問題、デュクロの言語学的ポリフォニー理論、ラバテルの「視点」論などの言語理論の検討にほとんどの時間が割かれたため、当初予定していたケルブラ=オレッキオーニの発話行為と主観性の問題、オティエ=ルヴュの自己指示語の問題を十分に検討する時間がなかった。このため、『半獣神』自筆草稿の調査とディプロマティック版による翻刻はすべて完了しているにもかかわらず、草稿の発話行為論的アプローチによる分析の方は、(1)が完全には終了していないため、いまだ仮説の段階に留まり、論文としてまとめる段階まで進んでいないのが現状である。とはいえ、『半獣神』草稿群の綿密な調査の結果、マルシャル批評校訂版未収録の未発表草稿が1葉発見できたおかげで、それを分析することによって、この作品の新たな側面が照射され、マラルメ研究に大きく貢献できることは、ほぼ確実であると確信している。
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今後の研究の推進方策 |
マラルメ生成論研究への言語学的モデル導入可能性の検討に関し、当初の研究計画では予想もしていなかった膨大な時間を要することが判明したため,次年度以降は,検討すべき理論的著作を,本研究に応用可能なものだけに限定して、時間的な節約を図る予定である。特に、当初検討予定であったオティエ=ルヴュの自己指示語に関する研究は、膨大なデータを基にしたきわめて難解な理論であるため,研究期間内にその全貌を理解するには多大な時間が必要であることが予想される。したがって、『半獣神』草稿における自己指示語の加筆修正の問題に関しては,本研究の研究対象から除外し、今後の新たな研究課題として取り組む予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究に関わる海外発注したフランス語文献1点が、出版社の刊行遅延により、平成27年度内に入手できなかったため、この文献の購入金額分を次年度に使用する。
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次年度使用額の使用計画 |
この文献の入手により、最先端の研究動向を知るとともに、マラルメ自筆草稿の文体論的分析を中心とする本研究に役立てる。
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