研究課題/領域番号 |
15K12871
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
吉本 光宏 早稲田大学, 国際学術院, 教授 (80596833)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 世界文学 / ポピュラー文学 / ハリウッド映画 / 美術館 / 新自由主義 / 都市空間 / グローバリゼーション / 惑星 |
研究実績の概要 |
平成27年度に引き続き、現代の芸術や文化と新自由主義的時空間の関係性について多面的な分析を行った。(1)新自由主義的時空間と映画・視覚文化・文学の関係の理論的分析を進め、(2)現代アートと美術館が新自由主義的時空間とどう関わっているかについての考察を開始し、(3)これらの研究に基づいた論文の執筆し講演・学会発表を行うことが平成28年度の主な活動目標であった。平成28年5月に香港大学(University of Hong Kong)で開催された国際シンポジウム“Contextualizing Asian Ecocinema”での発表、7月のシンガポール国立大学(National University of Singapore)での講演、9月にペンシルベニア州立大学(Pennsylvania State University)で行われたアメリカ比較文学会“Globe, Planet, World: Comparison and the Problem of Disciplinary Scale”での発表、11月の慶応大学で開催されたシンポジウムでの発表など、研究成果を公にし関連分野の専門家から貴重なフィードバックを受け取る多くの機会に恵まれた。シンガポールでは映画と都市空間の研究者であるG・シム教授とともにフィールドワークを行い、シンガポールのグローバリゼーションと美術館・博物館の関係について意見交換を行った。また平成28年9月から平成29年1月まで米国プリンストン大学に客員教授(visiting professor)として滞在し、現地の研究者や博士課程の学生と、特に映画と文学について議論や意見交換を行った。また12月にはアメリカ各地の大学や日本の大学の研究者を招き、新自由主義的言説空間における文学・映画研究の可能性についてのシンポジウムを開催した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までのところおおむね順調に進んでいる。しかし同時に研究の全体的な方向性を転換する必要があることが明らかになってきた。先ず第一に、新自由主義という概念そのものの限界である。必ずしも誤った概念ではないものの、現在グローバルな規模で起きている大きな変化を説明するには新自由主義という概念の有効性は限定的であり、かつその歴史的射程も短すぎる。新自由主義という概念を保持しつつ、今後は資本主義というより大きな文脈のなかで、時空間の知覚や表象の問題を考えていく必要がある。さらに新自由主義という概念の相対化にともなって、グローバリゼーションの重要性も再検討されなければならない。つまり新自由主義と密接につながったグローバリゼーションという考え方の限界を乗り越えるためには惑星的な視点が必要不可欠であり、エコロジーの問題を避けて通ることはできない。第二に、理論的言説と文学や映画を含めた芸術のあいだに具体的な関連性を見つけることは容易ではないことが、2年間の研究を通じて明らかになってきた。これまで精読してきた重要文献から多くのことを学んできたが、しかしこの課題を完全に克服している著作には残念ながらまだ出会っていない。自分自身も簡単には克服できないだろうが、研究期間終了までに何らかの仮説を立てるところまでは辿り着きたいと考えている。最後に平成28年度も、予定していたほど美術館へのフィールドワークを行うことができなかった。プリンストン大学での活動で時間をとられたことが大きな原因の一つである。ただシンガーポールで複数の美術館を専門家と議論しながら見学したことは大きな収穫であり、今後の研究にも影響を与えるはずである。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度も基本的に研究の推進方策に変わりはない。新自由主義的時空間と映画・視覚文化・文学の関係を理論的に分析した文献は3年間の研究期間で読み切れる分量ではなく、さらにエコロジーや惑星的視点に問題関心の射程を広げると、その量は莫大である。残り1年の研究期間中にできる限りそれらの文献に目を通し、特に重要なものは精読し、そしてそこから浮き上がってくる問題を分析・考察した論文を執筆し、学会で発表さらに学術誌へ投稿していく。平成29年6月に韓国の高麗大学で開催されるアジア学会AAS-in-Asiaにおいて発表することが決まっており、平成30年3月にワシントンで行われるAASの年次大会にパネルのプロポーザルを提出することも検討中である。美術館へのフィールドワークとしては、11月にスペイン・ビルパオ、2月にアブダビへの出張を予定している。また秋には研究協力者と九州大学でシンポジウムの開催を検討している。さらに東京で今年度中に4回、文学や映画、視覚文化の専門家を招いて研究会を行い、新自由主義的時空間や環境、惑星的視点の問題を討議する。挑戦的萌芽研究ということもあり、手堅く研究成果をまとめるのではなく、今後の研究につながるような新しいアイデアや研究の種をできるだけ多く見つけ育てていけるように、多角的な視点から様々な活動を同時進行させていくつもりである。特に力を入れて進めたいのは、新自由主義的状況におけるSF小説とユートピア/ディストピアの関係、メディア・エコロジー、メタボリズムという鍵概念の考察である。
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次年度使用額が生じた理由 |
サバティカルで海外へ出たことにより、予定していたシンポジウムやフィールドワークを行うことができなかったこと、自分自身が海外に滞在することによって海外から研究者を招聘する必要がなくなったこと、また客員教授として滞在したプリンストン大学から全面的なサポートを受けて、科研費を使わずに国際シンポジウムを開催することができたことなどの理由で、次年度使用額が生じることになった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年6月にソウルの高麗大学で開催されるAAS-in-Asia学会で発表をすることが決まっており、そのために必要な旅費その他の経費に充てるつもりである。さらに2017年秋に九州大学で開催する予定のシンポジウムにかかる旅費、研究会へ招聘する4名の講師の旅費、研究関連書籍の購入のために使う予定である。
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