研究課題/領域番号 |
15K12874
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉川 雅之 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (30313159)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 東西言語文化交流 / 聖書 / マーシュマン / モリソン / 音訳語 / 言語接触 / 粤語(広東語) / マカオ |
研究実績の概要 |
平成28年度は,主に以下の4項目から成る研究活動を行った。 1.マーシュマンがラサールの助力を得て1810年にインドのセランポールで刊行した『此嘉音由孖挑所著』(「マタイによる福音書」の漢訳。以下『マタイ』と略す)に現れる,漢字による音訳が為された人名・地名を抽出し,その全てに対して漢語(絶対的多数は粤語)による推定音価を与える作業を行った。次いで,それら推定音価を英語音と比較する作業を行った。これらの情報はデータベースとして保存した。その過程で,当初予想していなかった言語種の痕跡が確認されたが,これは平成27年度に『マルコ』について確認されたものと同一の現象であるため,併せてその分析を行った。 2.『マタイ』の音訳語について,データベースにはモリソンの新約聖書に於ける漢字表記も加え,両宣教師の音訳の違いを対比した。 3.2016年7月と10月にオクスフォード大学Angus図書館での文献調査を計2回行い,当館に所蔵されるマーシュマンと所属教会との通信記録をデータ入力した。そして,ラサール以外にマーシュマンの事業を補助していた人物として,少なくとも華人1名が存在していたことを確認した。 4.2016年7月と12月にケンブリッジ大学図書館での文献調査を計2回行い,音訳形式及び章句の漢訳方法について,マーシュマンの『マタイ』と『マルコ』が19世紀の他の漢訳聖書各種(文言版・口語版とも)に対して有するところの独自性を確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は,文献調査を積極的に行ったことで,マーシュマンの音訳形式の特徴を具体的に定義することができる段階にまで研究を進めることができた。 また,過去2年間に行った『マタイ』と『マルコ』の音訳語に対する分析によって,マーシュマンが1809年に著した『論語』の英訳(マカオの粤語に従ったラテン文字による表音が付記されている)からは窺い知ることが不可能であった幾つかの重要な漢字について,その音価の解明が可能になると確信するに至った。18世紀末期のマカオの粤語音の全貌を明らかにするための唯一の手がかりが得られたことを意味するものであり,その学術的意義は大きい。
|
今後の研究の推進方策 |
平成29年度は,次の3点を主に研究を推進していく。 1.本科研費応募時に予定したとおり,マーシュマンがラサールの助力を得て刊行した『マタイ』と『マルコ』について,人名・地名を表す語の照合作業を行い,両資料が同一の音韻体系を反映するものであることを確認する。 2.オクスフォード大学Angus図書館での追加調査を1回行い,当館に所蔵されるマーシュマンと所属教会との通信記録を解読を進める。 3.『マタイ』と『マルコ』の音訳語に対する分析によって,マーシュマンが著した英訳の『論語』からは窺い知ることが不可能であった幾つかの重要な漢字について,その音価の解明が可能になると確信するに至ったため,その音価について学術論文を執筆し,学術誌に投稿する予定である。
|