研究期間の最終年度である平成29年度は,主に以下の5項目から成る研究活動を行った。 1.マーシュマンがラサールの助力を得てインドのセランポールで刊行した2つの福音書に現れる,漢字による音訳が為された人名・地名のデータを統合し,漢語(絶対的多数は粤語,即ち広東語)による推定音価を英語や古典ギリシア語の音価と比較した。一部分の音訳語についてはアルメニア語の音価との比較も行った。そして,2つの福音書の音訳語が基本的に同一の音韻体系を反映するものであることを確認した。 2.上述の音訳語について,他の宣教師の手になる漢訳聖書の語形との比較を行い,その相異点を分析した。分析結果の一部分については国際学会で行った口頭発表にて論じた。 3.2017年9月にオクスフォード大学Angus図書館で文献調査を行い,当館に所蔵されるマーシュマンと所属教会との通信記録を閲覧し,解読を進めた。 4.2つの福音書の内『マルコ』福音書について,どの様な手順で漢訳が為されたか,言語形式から解明すべく,語形面と統語面に跨がる包括的な分析を行った。分析結果については国際学会で口頭発表を行い,参会後には口頭発表の内容に基づいた学術論文の執筆に着手した。本稿は学術誌に投稿する予定である。また,2つの福音書の内『マタイ』福音書についても,同様の包括的な分析に着手した。 5.本科研の研究期間3年間に行った音訳語に対する分析結果に基づいて,18世紀末期のマカオの粤語音の全貌の解明を視野に入れた学術論文の執筆を開始した。
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