研究の最終年度は、これまで日本(J)・韓国(K)・中国(C)・マレーシア(M)にてそれぞれ収集したデータを統合し、主に次の2点に絞っての検討を行った。(1)迷惑行為に対する認知(迷惑度)と迷惑行為に対して相手に注意をするかどうか(注意有無)はJ・K・C・Mとでどの程度異なるのか、(2) 日本語学習経験はK・C・Mの社会的迷惑行為に対する迷惑度と注意有無にどのような影響を与えるのか。 分析では、迷惑度に対する注意有無、迷惑場面、そして日本語学習経験の影響を総合的かつ階層的に検討するため、SPSSの決定木分析を用いた。分析の結果、本研究で用いた18項目の迷惑行為に対する迷惑度は、J(M=4.01)>M(M=3.88)>C(M=3.77)>K(M=2.47)の順で高いことが分かった。つまり、迷惑行為に対する認知に違いが見られることから、J・M・C・K間では社会文化的規範の距離が異なることが予想される。一方で迷惑行為に対して注意する割合は、M・C(41.1%)>J(22.3%)>K(14.4%)の順で高かった。M・Cが同じグループになっているのはマレーシアと中国とで同じ傾向であったことを示しており、注意行為では迷惑度の最も高かった日本人よりも中国人やマレーシア人のほうがより積極的な態度をとることが明らかになった。韓国人は迷惑度も低く、注意行動においても最も消極的な態度であった。日本語学習経験の影響は、全体的に注意有無や場面の下に位置しており、しかも全ての場合においてその影響が見られた訳ではないことから、迷惑度を決める最も強い要因ではないことが示唆された。迷惑度を決める最も強い要因は注意有無、その次に場面の順であった。 以上の結果については、分析方法を途中で再検討したりしたこともあり、年度内での成果発表までには至っていないが、今後学会発表や論文執筆を通して順次公表していく予定である。
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