研究課題/領域番号 |
15K12892
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
柴崎 秀子 長岡技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00376815)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 作動記憶 / リーディングスパンテスト / 日本語学習者 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は2つあり,1つは日本語学習者用のリーディングスパンテストを開発すること,もう1つはそのテストを使って読解研究への応用を図ることである。 記憶研究の分野では作動記憶が読解を説明する有力な要因であることがわかっており,その作動記憶の容量を測定するのがリーディングスパンテスト(以下RST)である。RSTとは以下のようなテストである。まず,パソコン画面に刺激文が1文ずつ提示され,実験協力者はそれを音読する。文の数は2文,3文,4文,5文条件と次第に増えていき,各文条件で5試行行われるのが一般的であり,全部で70文が必要となる。各試行が終えたら,実験協力者は直ちにターゲット語の再生をする。すなわちターゲット語も70語必要である。この再生された単語によって得点が決定され,これが実験協力者の作動記憶容量の指標となる。記憶研究の分野では良く知られたテストであるが,作動記憶と第二言語及び外国語読解との関係は未知の部分が大きく,特に,日本語教育では学習者用のRSTは着手されておらず日本語読解と作動記憶容量の関係についての研究は管見の限りまだない。 本研究は3年計画で,以下に具体的に述べる。第一に,信頼性の高い日本語学習者用RSTを作成する(平成27年度)。第二に,そのRSTを用いて読解能力との関係を明らかにする。具体的には,日本語学習者を実験協力者として,日本語の習熟度と作動記憶容量の関係を分析する(平成28年度),日本語RSTの成績に対する母語の影響の有無を観察する,最終的に日本語読解力と日本語RSTの関係について重回帰分析を用いて分析し,日本語RSTが日本語読解力の説明変数であるかどうか分析する。(平成29年度)。 本研究により,日本語学習者用リーディングスパンテストが開発され,研究者が自由に使えるようになれば,日本語教育の読解研究において新たな知見を得ることが可能となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度である平成27年度は,本研究の目的の1つであるリーディングスパンテスト(以下RST)の作成が行われた。このテストについてMiyake & Friedman (1998)は刺激文の難易の統制が必要であることを示唆している。そこで本研究では,RSTの試作を作り,長岡技術科学大学の留学生10名ずつを対象に予備実験を3回行った。刺激文とターゲット語はそれぞれ70ずつ必要であった。ターゲット語の親密度はNTTデータベースの「日本語語彙特性」と旧日本語能力試験の語彙級を使った。刺激文の難易度判定は研究代表者が開発したリーダビリティー・リサーチ・ラボの測定ツール(http://readability.nagaokaut.ac.jp/research/html/modules/tinyd0/)を用いた。 刺激文の作成とターゲット語の選択はかなりの回数で作り直しが必要であることは当初から予想されたが,テスト結果の得点分布を正規性の検定と信頼性の分析をした結果,27年度終了時点において,まだ完全に近いものは出来ていない。その理由として,以下のことが考えられる。まず,正規性については実験協力者が最低でも50名はいないと得点分布への正規性は難しいと考えられる。次に,信頼性についてはクロンバックα係数が0.21という結果で,最低でも0.4はほしいところだが,これも課題として残っている。この点についてもある程度のサンプル数が良好な数値が得られないと考えられる。 また,申請時,初年度は実験用パソコン2台分を含め1020千円を計上したが,配分額は500千円であった。そこで研究代表者が日常使用している1台のパソコンを実験用としたため,実験に支障をきたし研究の遅れにつながった。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き,日本語学習者用リーディングスパンテスト(以下RST)を作成し,予備実験を行いながら信頼性の高いテストになるよう努力する。テストの作成については前年度に引き続き,ターゲット語の親密度にNTTデータベースの「日本語語彙特性」と旧日本語能力試験の語彙級を使う。刺激文の難易度判定は研究代表者が開発したリーダビリティー・リサーチ・ラボの測定ツールを用いる。長岡技術科学大学には約300名の留学生がいるが,母語が多様であり,実験変数の統制ができない可能性がある。その場合は,他大学に実験協力を依頼する可能性もある。 また,本研究のもう1つの柱である読解力測定も作成する必要がある。年度内に質の高いRSTが完成すれば,日本語の習熟度(中上超級の3レベル)と作動記憶容量の関係を分析する予定である。この習熟度の指標は読解力,語彙知識,文法知識を測定するテストと日本語能力試験のレベルである。これまで作動記憶分野の多くの研究が,母語におけるRSTと読解テストの相関は高いと結論づけている。しかし日本語学習者の母語は多様であり,実験協力者の母語別にRSTを作成することは不可能に近い。一方,日本語習熟度と作動記憶容量との関係については分析が可能であるので,この点について明らかにしたいと考えている。 2年目にあたる28年度は申請時において1130千円の計上をしたが,配分額は600千円であった。これは海外出張にあてる必要があるので,他の研究活動にはほとんど研究費が残らないことが想定される。この点については研究代表者の基盤研究費等を当てることと,ツールなどは他の研究者に支援を依頼するなど対策を考えたい。
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