研究課題/領域番号 |
15K12894
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
實平 雅夫 神戸大学, 留学生センター, 教授 (30253701)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 人文科学 / アカデミックライティング / 引用表現 |
研究実績の概要 |
上級の日本語能力を有する外国人留学生が、人文科学系大学院において論文の引用表現にあたり抱えている困難を解消するための理論的枠組みを構築し、人文科学系論文における引用表現指導に関する手引きを作成することを目的としている。日本語教育における従来のアカデミックライティング研究は、その多くが一般の作文指導を全般的な論文指導に応用したものであり、必ずしも専門分野に特化した引用表現指導を実現するに足るものではなかった。本研究では、特に人文科学系論文における引用表現の持つ特有性を解明し、それに基づいて留学生の母語の違いからくる引用表現の特徴・傾向を明らかにすることで、大学院レベルでのより効果的な引用指導につながる理論的枠組みの構築に着手した。 平成27年度は、本研究に関わる先行研究の整理・検討と研究分野別論文の傾向分析により理論的枠組みの構築を目指す理論研究を始めると共に、留学生のレポート・論文等の収集を開始し、並行して母語別に学習者の引用表現の誤用分析を中心とする母語別の問題点の解明を行うデータ解析に着手した。 理論研究は、人文科学系論文の理論的枠組みを構築するため、関連する先行研究を整理し、各研究分野の論文の傾向の解析に着手した。また、人文科学系論文の分析においては、歴史学、文学、社会学、心理学の各研究分野の研究者(神戸大学大学院人文学研究科の教員)の協力のもとに得られたデータをもとに分析を実施した。さらに、人文科学系論文における引用表現指導の手引きの作成に向けて、インターンシップ・ポートフォリオ・チューター・ティーチングアシスタント等に関する検討を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下の進捗状況を交付申請書に記載した平成27年度の研究計画・方法と照らし合わせ、自己点検を行った。 理論研究においては、アカデミックライティング・ライティング・引用・論文をキーワードとして関連分野の学術書籍・学術論文・科研費報告書のデータベースを構築し、先行研究の整理として、英語教育、日本語教育関連の先行研究における問題点を抽出すると共に、文化心理学において開発された実験方法で利用できるものを探索しパラメータの設定を検討した。また、研究分野における論文の分析として、引用パターン等の論文構成に関わる基礎データを整理、分析すると共に、分析結果を検討し、引用表現指導につながるものを厳選した。 データ解析においては、データ収集として、人文学研究科所属の大学院生の論文を資料として活用するため収集を始めると共に、人文学研究科において日本語教育学関連の授業を実施し、資料として活用できる提出された課題、レポートを収集した。 データ分析においては、母語別、分野別に引用表現を分析し、論文作成に当たって留学生が困難に感じている事柄を明確化するために、分析結果をもとに引用表現指導の方法論についてのたたき台の作成を開始した。 そして、理論研究とデータ分析研究との整合性を維持するため、両研究の分析結果の擦り合わせを行い、効果的な引用表現指導の方法論を確立するための検討を始めた。同時に、引用表現指導の方法について、インターンシップ・ポートフォリオ・チューター・ティーチングアシスタント等に関して検討を開始した。研究で得られた知見は、関連する研究会及び学会において、意見交換等を行った。
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今後の研究の推進方策 |
研究の基本方針・活動内容は基本的に平成27年度と同様であるが、平成28年度以降は、さらにデータ量を増やし、研究の妥当性とその効果を検証することにより、更に効果的な引用表現指導の方法論が確立できるように柔軟に対応する。 理論研究においては、人文科学系論文の理論的枠組みを構築するため、関連する先行研究を整理し、各研究分野の論文の傾向を解析する。文化心理学の手法と枠組みを用い、主観性、断定度、書き手責任対読み手責任、抽象度、包括的対分析的などのパラメータを立て、それぞれのパラメータが具体的に表われる現象をデータによって明らかにすることによって全体的な傾向と個別的な傾向の関係を示すことを目標とする。また、人文科学系論文の分析においては、歴史学、文学、社会学、心理学の各研究分野の研究者(神戸大学大学院人文学研究科の教員)の協力のもとに得られたデータがあり、協同で分析結果を検討する。 データ解析においては、提供された留学生の論文(ネイティブチェックの入っていないもの)を日本語教育学的観点から分析し、学習者の母語別、専門分野別の引用表現の傾向と特徴とを明らかにし、対策案のたたき台を作る。 そして、人文科学系論文における引用表現指導の手引きを作成することにより、留学生論文の質向上を目指して、チューターの役割の充実、留学生に対する論文指導におけるポートフォリオの導入等の指導方法の検討及び試行などを通して、留学生を担当する国内外の各分野の指導教員、ティーチングアシスタント、チューター、インターンシップに対する貢献を図っていく。同時に、追跡調査として、作成された人文科学系論文における引用表現指導の手引きを基に指導された留学生が、その後、どのような論文を書くに至ったかを調査する予定である
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費・旅費・人件費について、縮減に努めたため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度に直接経費に充当する。
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