研究の基本方針・活動内容は基本的に平成29年度と同様であるが、平成30年度は、研究の妥当性とその効果を検証することにより、更に効果的な引用表現指導の方法論の確立を目指した。 理論研究においては、人文科学系論文の理論的枠組みの精度を高めるため、関連する先行研究を整理し、各研究分野の論文の傾向を解析した。文化心理学の手法と枠組みを用い、主観性、断定度、書き手責任対読み手責任、抽象度、包括的対分析的などのパラメータを立て、それぞれのパラメータが具体的に表われる現象をデータによって明らかにすることによって全体的な傾向と個別的な傾向の関係を示すことを試みた。 また、人文科学系論文の分析においては、歴史学、文学、社会学、心理学の各研究分野のデータにより、分析を継続した。データ解析においては、提供された留学生の論文(ネイティブチェックの入っていないもの)を日本語教育学的観点から分析し、学習者の母語別、専門分野別の引用表現の傾向と特徴とを明らかにしつつある。 そして、人文科学系論文における引用表現指導の手引きの試作を試みることにより、留学生論文の質向上を目指して、チューターの役割の充実、留学生に対する論文指導におけるポートフォリオの導入等の指導方法の検討及び試行などを継続して、留学生を担当する国内外の各分野の指導教員、ティーチングアシスタント、チューター、インターンシップに対する貢献をさらに図った結果、組織的に日本語アカデミックライティングを指導する体制(アカデミックライティングラボ)の構築に向けた示唆が得られた。 今後は、その体制の構築を目的とした応用的研究と共に、作成された人文科学系論文における引用表現指導の手引きを基に指導された留学生が、その後、どのような論文を書くに至ったかの調査研究を課題とする。
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