研究課題/領域番号 |
15K12898
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
三宅 和子 東洋大学, 文学部, 教授 (60259083)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 日系ディアスポラ / アイデンティティ / 移動 / ことば / 日本語の継承 / 言語意識調査 / 日本語教師 / ネットワーク |
研究実績の概要 |
本研究は、越境する人と物が交差・融合しグローバル化する現代社会の中で、日本人、日本、日本語の概念は個人とどのように関わり、アイデンティティの形成をどのように支えるのかを、日本語教育と社会言語学の視点から調査・考察するものである。高度経済成長期以降に欧州に渡り長期滞在・永住する日本語話者を日系ディアスポラと名づけ、日本語をめぐる言語実践について、長期滞在日本語教師と、それ以外の日系ディアスポラの2対象に向けて2段階の調査を行っている。従来体系的に把握されてこなかった海外(特に欧州)の日本語教師の実態と日本語の継承の問題と実態を調査し、日本語教師の調ネットワークを構築する。同時に、高度成長期以来在欧する日系ディアスポラのことばとアイデンティティの関係を探る。 28年度は、27年度に構築した様々なネットワークづくりを基盤に、大きく2種類の活動を行うことができた。1)27年度後半に行ったJA(英国日本人会)会員へのアンケート調査を集計し、結果の一部を社会言語科学会口頭で発表、論文として発表することができた。これまで得られていたインタビュー調査と照らし合わせ、高齢に達した日本語話者たちが日本社会、日本語、日本人アイデンティティと英国在住とのはざまで揺れる実態を明らかにできた。2)27年度、28年度で関係を構築した方々との対話や活動が実を結び、パネル(国際日本語教育大会/インドネシア・バリ)やワークショップ(第38回社会言語科学会大会)として結実したが、活動と興味を共有する研究者と共に「移動とことば」研究会を発足させ、27年12月の第1回研究会に続き、第2回を28年12月に開催した。第3回を29年4月に開催したのちは、編著書として公開する予定である。今後も「移動とことば」をめぐって、様々な研究者・教育者との輪が広がって基盤を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は研究課題が示すように、大きく以下の2種類の活動をおこなっている。 1)日本語教師のネットワークづくり 2)日系ディアスポラの言語生活調査 1)日本語教師のネットワークは、年度を重ねるごとに着実に形成されてきている。特に「移動とことば」研究会を立ち上げたことにより、活動のコアが明確になり、その中に日本語教育、言語教育、社会言語学、ことばの民俗誌研究を中心とした研究・教育者が集結しつつある。グローバル化世界の中で「移動とことば」がいかに喫緊の問題であるかが、日本語をめぐる研究者にも共有されつつあることを物語っている。 2)日系ディアスポラの言語生活調査についても、27年度後半に行ったJA(英国日本人会)会員へのアンケート調査を集計し、結果の一部を発表、論文として発表することができた。日本語の継承に興味のある日本語教師や在留邦人団体などにこの結果への興味が広がっている。結果の公表を通して、グローバル化の中で日本語の保持と消失の意味と意義について考える資源として活用できるように、また本研究をきっかけに同種の研究が広がっていくようにとの意図のもと活動を続けている。
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今後の研究の推進方策 |
29年度の計画は以下のとおりである。 1)ポルトガルで行われるEAJS/AJEで、欧州における日本語話者と日本語の継承・教育に関するパネル発表を行う。 2)英国日本人会の調査をまとめ総合的な結果として講演を行う。日本語教師との調査・研究ネットワークをさらに広げる活動を行う(JFやBATJとの共同)。 3)第3回の「移動とことば研究会」を開催し、発表を踏まえた投稿論文の選定と編集、書籍化を行う。 4)以上の活動とともに、科研の最終年度として、研究実績と今後の研究課題を集約して次年度以降の研究につなげる。
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次年度使用額が生じた理由 |
28年度は国際会議出席と調査のため2度の海外渡航を行い、さらに共同研究を進めている研究者との協議と発表を行うため研究費の一部を支出したため、予算以上の支出が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
使用計画を修正し縮小した予算内で支出する。「物品費」:現在使用しているノートPCのHDDが年度末に故障したため購入。「旅費」:海外渡航・発表・調査を学生夏季休暇中の1度にする。「謝金」:インタビューの文字化費用を10万円レベルに抑える。
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