本研究は、越境する人と物が交差・融合しグローバル化する現代社会の中で、日本人、日本、日本語の概念は個人とどのように関わり、アイデンティティの形成を支えるのかを、日本語教育と社会言語学の視点から調査・考察することを目的としている。高度経済成長期以降に欧州に渡り長期滞在・永住する日本語話者を日系ディアスポラと名づけ、日本語をめぐる言語実践について、日系ディアスポラのことばとアイデンティティの関係を探る調査を行うとともに、従来体系的に把握されてこなかった海外(欧州)の長期滞在日本語教師の実態(日本語教育、言語生活、社会生活など)を把握し、その過程で日本語教師の調査ネットワークを構築する。2017年度はその3年目(最終年)に当たる。 2017年度は日系ディアスポラの家族の成員間のアイデンティティとことばの関係を調査するため、高齢に達したディアスポラと青年・壮年に達している子どもたちのインタビュー調査を行い、40-50年のスパンで歴史や環境を含めた言語実践のリアリティを明らかにした。 8月30日-9月2日はポルトガルにおいてヨーロッパ日本学会・日本語教師会国際大会に参加し成果に基づいたパネル発表を行った。さらに、9月にはドイツ、フランス、イギリスを歴訪して国際交流基金や文化センターで講演を行い、在欧日本語教師を中心とする教育者・研究者との交流及びネットワークを確立した。このほか、第21回ひと・ことばフォーラム(2017年3月4日)、第3回移動とことば研究会(4月15日)で「移動とことば」関連の発表を行っている。 また2016年から続けてきた「移動とことば研究会」の成果を『移動とことば』(川上郁雄・三宅和子・岩﨑典子編著)として刊行(2018年8月予定)するため、編集会議を密に頻繁に開催した。
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