本研究は、日本国外において、幼少期より複数言語環境で日本語を学ぶ子どもたちの日本語能力も含む複言語複文化能力を把握し、日本語教育の新たな教育方法を検討することを目的とする研究である。そのため、当事者である子ども、そして幼少期より複数言語環境で成長した体験を持つ大人が自らの体験や複言語複文化能力をどのように意味づけて経験として記憶し、生きてきたのか、また生きているのかという課題を全人的視点で、またライフコース全体の中で捉える調査を行った。調査地は、アジアと欧州からタイ、ドイツを選び、それぞれの地域で、幼少期より複数言語環境で成長しつつ日本語を習得してきた20代から40代の約20名に対面によるインタビュー調査を行った。この調査によって得られたデータは「移動する子ども」の分析視点である3点、1、空間移動、2、言語間移動、3、言語教育カテゴリー間移動から分析された。その結果、これらの「移動の経験」が当事者の心情や言語能力観、意味世界が明らかになった。これらの成果から日本語教育の教育方法や教材開発においても、「移動する子ども」の視点が必要であることが確認された。その研究成果は、2015年度はヨーロッパ日本語教育シンポジウム(フランス・ボルドー)、2016年度は国際日本語教育大会(インドネシア・バリ)および社会言語科学学会(京都)、2017年度は、ヨーロッパ日本語教育シンポジウム(ポルトガル・リスボン)の学会で発表された。また「移動とことば」研究会を2016年から3回実施し、国内外から参加した多数の研究者と研究協議を行った。その研究成果は2018年7月に書籍として刊行することが決定している。これらの研究成果は、今後行うユニット教材開発やグローバルバンドスケール研究へ発展する成果と言える。
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