本研究は、コーパス言語学の枠組みの中で論じられている母語の影響を測定する一方法として、日英翻訳学習者コーパスを構築・分析することで、日本語母語話者に特徴的に見られる英語表現が、母語である日本語とどのように関わっているのかを検証し、日本語母語話者の産出する不自然な英語表現の要因を探ることを目指した。さらに、自律した言語使用者・言語学習者を養成するためのオンライン学習支援ツールを開発し、翻訳のスキルを活かし、日本語と英語を駆使できる言語運用能力育成を目指す教授法の実践を行った。 英語学習者日英翻訳コーパスを作成し、その分析結果から、英語力を養成するためのオンライン学習ツールを開発した本研究の目的と成果は主に次の2つにまとめられる。 (1)日本語を母語とする英語学習者が、日本語を翻訳して英文を書く際に陥りがちな傾向を分析することによって、どのような日本語の影響を受けているのかを考察し、翻訳スキルを応用した英語ライティング教育方法を検討することを目的としていたが、特に主語が省略される日本語の文体や、二人称をさける日本語の社会言語的特徴のために、主語や人称の取り方に起因する誤用傾向が特徴的であることが明らかとなった。 (2)学習者のオンライン自主学習ツールとしてだけでなく、英語学習者翻訳コーパスを構築するシステムとして、オンライン翻訳学習ウェブサイトの開発を目指していたが、専用のサーバー上にサイトを構築し、授業・自主学習支援に使用することができるツールを作成し、学習支援・コーパス作成などに活用した。さらに、誤用箇所にエラータグを付与する機能を追加し、誤用傾向分析結果をオンラインツールの開発に組み入れ、日英翻訳学習者コーパスのデータベース化に活用するだけでなく、英語と日本語の言語的・文化的差異を意識させ、英語ライティング力の向上を目指す教育的アプローチとしても試みることができた。
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