本年度は1年間研究期間を延長した計4年間の最終の年度であり、次の点について主に研究を進めた。本研究で留学者から収集した留学中の出来事を振り返るインタビューデータを分析するために用いられる質的な分析手法であるTEA(複線経路等至性アプローチ)について、さらに正確な理解と運用を期するために、日本精神衛生学会で開催されたTEAに関するワークショップに参加し、演習形式を交えた講習を受けた。 これまでは、個々の留学者別にTEA分析を行ってきたが、今回のワークショップでは、複数名の対象者のたどる留学中の経路の共通性を探り、その経路にさらに抽象的で一般性のあるネーミングをしていくという分析手法について研修を受けた。 それを基に、留学体験者のうちこれまで別々に分析を行なってきた4名に対して再度TEAを行った。その結果、浮かび上がってきた共通の事象としては、まず一つには、個人のもともとの性格や、留学前の人生経験で培われた留学者の考え方や物事の認識の仕方が、留学中の出来事や分岐点での選択に大きな影響を与えることが判明した。また、留学中に遭遇する問題点や、多かれ少なかれ誰もが遭遇する留学中のある種の「スランプ」からの脱出には、周囲からの言語的、非言語的サポートや、偶発的かつ経路を進むのに促進的な出来事などの「社会的助勢」が関与していることが判明した。さらに、留学者の自発的な現地での人間関係への働きかけが本人の自己効力感の向上につながることがあらためて確認された。 これらの知見については、今年度中に投稿予定で現在論文化を行っている最中である。
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