研究実績の概要 |
本研究最終年度の2017年度には、下記のような研究を行った。 (1)文献資料・刊行史料(貿易統計)による調査:最大の象牙産出地である東アフリカの象牙がザンジバルからインド(ボンベイ)を経てイギリスへ、さらにそこからヨーロッパ・アメリカに輸出される過程の年次的変化を把握した。また、前年度までに調査の及んでいなかったマホガニーの動きにつき、アフリカ・東南アジア・中南米とヨーロッパとの貿易関係の中で把握した。これらを通じて、近代ピアノの主要な材料(ヨーロッパ産である響板用木材を除く)の全体的な動きを把握し、19世紀を通じての近代ピアノ成立史を、奴隷貿易から植民地主義的貿易関係への変化の中に位置づけてとらえることができた。 (2)2017年9月にはイギリス国立文書館で、同12月にはドイツ連邦文書館で、ブロードウッド社およびベヒシュタイン社に関する未公刊史料を調査し、これらの主導的な会社と他の多くの初期ピアノ製造業者との情報交換関係についての資料を収集し分析した。また、前値度の調査の補足として、民音音楽博物館(東京・神戸)で現物調査を行い、近代ピアノおよびそれ以前の鍵盤楽器における材料にかんする事例を収集した。 (4)製品としての近代ピアノの輸出入については、英帝国およびドイツ帝国の貿易統計資料から分析した。また、近代ピアノのアフリカでの普及について、教会および学校に注目し、ミッション史料(LMS,NMG、BMGなど)を分析した。 (5)これらの成果を総合し、マテリアルヒストリーという観点からの近代ピアノの成立と普及にかんする論文を準備している。
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