本研究の目的は、近年の沖縄における独立を求める人々の動きを念頭におきながら、その是非ではなく、独立を議論する認識枠 組み自体を人文学的課題として検討することである。とりわけ、歴史学を中心とする戦後日本にかかわる人文学が前提としてきた主権的枠組みや国民といった共同性を再検討することが、沖縄独立を論じる際に必要不可欠であると考える。こうした前提となる参照項自体を問う作業を抜きにして、沖縄にかかわる独立は 議論できないのではないか。いいかえれば、こうしたこれまでの人文学の前提にかかわる概念に認識の再検討が 求められているのである。これが、本研究目的の基本的な問題意識となっている。これをふまえ2018年度においては、沖縄独立という動きにおける奄美地域の問題を集中的に取り上げた。具体的には、以前からおこなっている奄美大島名瀬にある教育会館に所蔵している奄美復帰運動関係資料(通称松田文庫)の資料整理と調査、関係者の聞き取りを本年も継続的に行った。またこうした活動の中で、地元の研究組織である奄美郷土研究会のメンバーとの交流並びに共同でのワークショップを3月に開催した。 ワークショップの内容は、戦前期の人類学者たちがどのように琉球を調査したのか、その問題点ということだが、とりわけ現在大きなテーマになっている人骨の盗掘問題が焦点になった。研究において奄美地域や沖縄の墓から人類学者が盗掘したのである。そして現在もその人骨は大学(具体的には京都大学)にある。またこの問題にかかわる訴訟が現在京都大学を相手取って展開しているが、こうした状況の中で、研究の社会的意味にかかわる同ワークショップを京都大学の駒込武氏、同志社大学の板垣竜太氏、北海道立開拓記念館の小川正人氏らと開催し、多くの市民や地元の郷土研究者の参集を得た。
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