本研究は豊臣政権論に資するための基礎的作業として、豊臣家・豊臣政権の文書論構築を目指したものである。豊臣秀吉の発給文書は、前後する織田信長や徳川家康に比して、格段に大量に及ぶため秀吉自身の発給文書の網羅的集成も長くおこなわれてこなかったが、近年にいたりようやく『豊臣秀吉文書集』の刊行が開始された。秀吉の文書は単独で機能することもあるが、多くの場合奉行の副状あるいは奉書を伴っており、これらの副状や奉書が具体的かつ詳細に政権の指示を伝達することがある。すなわち、豊臣家・豊臣政権の文書論の構築にあたっては、秀吉自身の発給文書と、側近の奉行衆の発給文書を一体的に関連させて論じる必要がある。本研究最大の成果は、単著『石田三成伝』(平成29年1月、吉川弘文館)の刊行である。秀吉の側近あるいは奉行として最重要人物といえる三成の伝記を、その発給・受給文書を博捜し、そこから三成の人物像を描出した。これによって豊臣政権の政遂行にあたり、奉行がどのような位置づけをゆうしたのか、文書論の観点から明確になった。ついで、平成28年9月に早稲田大学で実施された日本古文書学会での報告が、大きな成果としてあげられる。これは「豊臣政権の奉行発給・受給文書に関する一考察」と題して、政権論の中で大きな比重をしめてきたいわゆる「取次論」について、文書機能論の立場から再考を促すものである。諸般の事情から現段階で論文のかたちにはなっていないが、報告学会の機関誌である「古文書研究」へ掲載の方向で、最終的に調整をおこなっている。
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