研究課題終了予定年度であった2017年度中に完了できなかった史料調査を今年度も継続して進めた結果、1945年から1948年までの史料の収集と分析作業を完了した。また、これらの史料解析ならびに全研究実施期間を通じて収集した史料データの総合を行なった。 これらの調査結果を踏まえて、戦争犠牲者への保障の枠組みとその条件が国民化の進展に伴って確定されていく様子を検討した。その際、犠牲者意識は人種や出自などが理由で迫害された人々らの社会的位置づけを「援用」(あるいは「簒奪」)する一方で、戦争とナチズム体制を差別化することによる戦争犠牲者の特権化が進んでいく政策実態の特徴を解明し、犠牲者化する国民の論理に関する批判的な分析を行った。なかでも第一次、第二次世界大戦を区別せずに犠牲者を統合することが強く求められた社会的状況に着目し、両次大戦の違いや政治体制の違いを克服する試みがみられた点を明らかにした。 一方、女性および孤児を戦争犠牲者として包摂するメカニズムや心身に障害を負った元兵士らへの社会復帰支援など多岐に及ぶ論点のより詳細な分析が必要であることもわかった。そのため、今後は、1949年以後1960年代までの史料をさらに収集し、オーストリア型の福祉社会の原型ともいわれる戦争福祉の実体と犠牲者国民意識の関連性を検証する本格的な研究へのステップアップにつなげていくつもりである。そしてさらには、他国、他地域との比較研究を進める必要もあると考えている。 なお、現在、当該研究課題の成果の一部を含む成果公開準備を進めているところである(投稿中)。
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