最終年度では『難波丸綱目』の翻刻作業、各町の座標入力を行い、諸情報をベースマップへ統合する作業を行った。また17世紀末の大坂案内記、『難波丸』を素材に、多様性指数分析、因子分析、ネットワーク分析の三つの統計分析を行い、町と職・店との関係を調べた。 多様性指数分析では、町ごとに職・店数と多様性指数を算出し、職・店と町の関係を検討した。一般に繁華街は職・店数が多く、多様性指数が高い。それに対して、職・店数が多いにもかかわらず、多様性指数が低い町、即ち同職街のあることが分かった。それらの中には、問屋・仲買の櫛比する運河沿いの町などが挙げられる。このような職・店数と多様性指数の組み合わせによって、大坂の町の特徴と言われてきた「同職就居」や「繁華街」を定量的にとらえることが可能性になろう。 因子分析は『難波丸』に30件以上の記載のある職・店のうち、一町あたり6件以上の職・店のある町を検討対象として行った。分析の結果、北船場の町の中でも、東横堀に橋が架かり、東の上町と接続が容易な、メインストリートに多い職・店(紙・紙加工品、日用雑貨、書籍)と、それらの「裏通り」にあたる通・筋に多い職・店(家具・建具類、薬種)とを描き出すことができた。因子分析を適用することで、分布の類似する職・店のまとまりを抽出し、それらの都市空間における位置づけを読み取ることが可能になった。 ネットワーク分析では、紙およびその関連産業に着目して、各町の結びつきを検討した。流通に携わる問屋・仲買の多い町が、ネットワークの中心になると想定されたが、分析を行ったところ、紙問屋や仲買の多い江戸堀よりも、紙を素材にもの作りを行う職や、紙製品販売を行う店の多い今橋の方が連結中心性の高いことが分かった。これをふまえて、町間の紐帯の大きさや連結中心性を可視化し、紙産業からみた町のネットワーク図を提示した。
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