研究課題/領域番号 |
15K12950
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
中島 弘二 金沢大学, 人間科学系, 准教授 (90217703)
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研究分担者 |
米家 泰作 京都大学, 文学研究科, 准教授 (10315864)
竹本 太郎 東京農工大学, 農学研究院共生持続社会学部門, 講師 (10537434)
永井 リサ 九州大学, 総合研究博物館, 専門研究員 (60615219)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 日本帝国 / 森林開発 / 近代林学 / 満州 / 朝鮮 / 南方資源 / 自然 |
研究実績の概要 |
今年度は第2回目の全体研究会を2016年8月1日-8月2日に東京大学農学部林政史研究室で開催した。主な内容は(1)分担者各自の研究の進捗状況の報告、(2)東京大学林政文庫所蔵資料の閲覧および研究打ち合わせ、(3)植民地林業関係者の団体「外林会」幹事の武藤隆さん宅(東京都八王子市)にて主に満州関連の植民地林業の資料の閲覧。また、上記の(3)に関連して、2016年4月18日に高尾山で開催された「満蒙大陸林業人物故者慰霊祭」に参加して、上記「外林会」の関係者にインタビューを行った。そのほか、2016年7月9日に東京大学農学部で開催された「環境史研究会ワークショップ」に参加して、中国および台湾における林政史や森林管理について意見交換をおこなった。 各研究分担者の主な研究成果としては、中島が南方森林資源をめぐる「帝国林業」の認識に関する口頭発表(国際地理学会議、日本地理学会春季学術大会)をおこなったほか、現代における「自然」概念に関する論文を刊行した(E-Journal GEO, Japanese Contribution to the History of Geography 11)。また、米家は近代日本における朝鮮地誌に関する口頭発表(日本地理学会春季学術大会)をおこなったほか、「山民」概念に関する論文(歴史評論)と植民地期の朝鮮に対する日本人教員の認識に関する論文(文化歴史地理)を刊行した。永井は20 世紀初頭の日本と満州(中国東北部)の貿易に関する口頭発表(日本土壌肥料学会)をおこなったほか、『満洲事典』(2017年刊行予定、筑摩書房)所収の「満洲の自然」「林業開拓団」など森林・林業関連12項目を執筆した。竹本は台湾での調査において植民地期に日本が設立した農林学校で林学を学んだ台湾人へのインタビューをおこない、合わせて日本人の同窓生に関する情報も得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本科研の特徴は東アジア・東南アジアにおける森林の利用と保全を旧日本帝国の地政学的枠組みとの関連で解明しようとする点にある。その点において本年度も一定の成果を得ることができた。中島は東南アジアにおける森林利用が日本本土における森林保全と表裏一体の関係にあること、そして総力戦下の森林政策において形成されたそうした枠組みが戦後においても継承されていたことを明らかにした。米家は近代日本による植民地朝鮮に対する地理的認識や山地や森林をめぐる自然観・社会観を明らかにした。永井は戦前期の日本と満州との貿易上のつながりから満州での資源利用の実態を明らかにした。 また、今年度は永井を中心にして「外林会」の関係者とつながりを持つことができたこと、および竹本による台湾での調査によって農林学校関係者とのつながりができたことは大きな成果である。これまでほとんど解明されてこなかった植民地の林業官僚の具体的な活動内容、および引き上げ後の日本国内で彼らが果たした役割などを明らかにする重要な手がかりを得ることができたことは、今後の研究の展開に大きく貢献するものと期待される。日本の林学者や林業官僚が朝鮮、台湾などの植民地で果たした役割については、例えば斎藤音作(朝鮮)や金平了三(台湾)など何人かの人々について本科研においてもその実態が明らかにされつつあるが、その研究蓄積は十分ではない。また、それらの人々が敗戦後に日本の森林利用や森林保全に果たした役割や影響についてはこれまでほとんど未知数であり、次年度に申請予定の科研費(基盤B)の研究課題に継続・発展させていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度は本科研の最終年度であり、これまでの研究成果を踏まえて報告をおこなう予定である。具体的には、2017年10月に中国・天津市で開催予定の第4回東アジア環境史学会において、研究代表者の中島がオーガナイザーとなって本科研メンバー(米家、竹本、中島)を中心としたパネルセッション "Use and conservation of forest in empire: Imperial forestry of Japan and Britain" を組んで、帝国林業に関する本研究の成果を国際的に発信する予定である。このパネルセッションには、英帝国の環境史(森林史)を専門とする水野祥子氏(駒澤大学)を招いて、日本帝国と英帝国の帝国林業の比較研究を試みる予定であり、日本帝国を対象とする本科研の研究成果をグローバルな枠組みのもとに位置付ける試みをおこなうものである。この第4回東アジア環境史学会に向けて、夏休みまでに全体研究会をおこない、これまでの各自の研究成果を報告するとともに、パネルセッションでの報告の内容や議論の論点について検討を行う予定である。 また、今年度は日本帝国下の朝鮮、台湾、満州、東南アジアの各地の森林・林業に関するメンバー各自の研究を進めるとともに、上記のように植民地の林業官僚の具体的な活動内容、および引き上げ後の日本国内で彼らが果たした役割について、「外林会」関係者や台湾の農林学校卒業生等へのインタビューを行い、次年度に申請予定の科研費(基盤B)の研究課題につなげる道筋をつける予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額の内訳は研究分担者の竹本が125,460円、永井が59,478円の合計184,938円である。竹本の場合は、当初韓国と台湾での調査を複数回予定していたが、所属先が変更となり新しい組織での職務の関係上、本年度は海外出張が困難となり、台湾へ1回調査に行くことしかできなかった。もっとも、その1回の調査で今後につながる大きな成果をあげることができたため、研究の進展という点では大きな問題とはならなかった。繰越し金は今年度に行えなかった海外調査の費用として次年度に計上する予定である。また、永井の場合は前述のように「外林会」関連のインタビュー調査が当初の予想以上に順調に進んでいることから、次年度に東京への出張旅費を増額する必要性が生じたため、本年度の物品費や人件費・謝金の一部を次年度に繰り越すことにしたものである。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度への繰越し金の使途としては、竹本については本年度に行くことができなかった韓国と台湾、および中国・天津市での第4回東アジア環境史学会など複数回の海外出張を予定しており、繰越分はその費用に充てる予定である。また、永井については、上述の通り「外林会」関連のインタビュー調査のための出張旅費の増額分に充てる予定である。
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