研究課題/領域番号 |
15K12952
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
山本 健兒 九州大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (50136355)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 経済・交通地理学 / 周辺 / 地域 / 経済発展 / 中欧 / エムスラント / フォーアアルルベルク / シャフハウゼン |
研究実績の概要 |
2015年8月末から9月初めにかけて、ドイツ北西部のエムスラントとオーストリア最西部のフォーアアルルベルクに関する現地での資料収集ならびに識者へのインタビュー調査を行った。また、2016年2月にスイス北東部のシャフハウゼンに関して同様の調査を行った。その結果、エムスラント、特にその北部は、1970年代初めまでドイツの中で最も貧しい地域のひとつであったが、グローバリゼーションが進展する1990年代以降の成長が目覚しく、エムスラントはドイツ全国平均を上回る一人当たりGDPを実現していることが明らかとなった。 他方、フォーアアルルベルクは20世紀前半期にはオーストリアの中で工業化が進んでいた地域であったし、シャフハウゼンもまたスイスの中で鉄鋼業や機械工業が早くから発展していた地域であったが、いずれも各全国平均を上回るほどの経済水準だったわけでもなく、各々の伝統工業が1970年代以降になると構造不況に陥った。しかし両地域ともに、産業構造の転換に成功し、21世紀にはいると各国の平均を上回る経済水準を安定的に実現するに至っていることが明らかとなった。 上記3地域が、地理的に見れば各国の中での周辺的位置にありながら、経済的にはもはや周辺ではなくなっていることが明らかとなった。このような経済発展をもたらした要因として、エムスラントとフォーアアルルベルクについては地元中小企業の中から世界市場に商品を供給できる企業へと育ったものが複数あること、シャフハウゼンについては州政府の政策によって多国籍企業の中枢管理部門の誘致に成功したことが重要な要因であるという仮説が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究を構想した当時、3つの研究対象地域が、各々を含む国民国家の中で1950年代から1980年代にかけてどのような位置にあったのか必ずしも明確ではなかったが、現地での資料収集とその解読、及び識者へのインタビューによって、それが明らかとなった。さらに1980年代以降にどのような変化が見られたのかという点についても、その概略の姿が見通せるようになった。エムスラントは複数の地場企業が世界市場のなかでのハイエンド商品生産と販売に成功したこと、フォーアアルルベルクではそれまでの伝統的な工業であった繊維衣服とは全く別の機械工業や電気機械工業が地元の中から育ったこと、シャフハウゼンでは州政府の政策により、有力多国籍企業の欧州次元での中枢管理部門の誘致が実現して産業構造の転換が進展したことなどを見通せるようになった。以上の知見を得たがゆえに、挑戦的萌芽研究の1年目として、順調なスタートを切ることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究対象地域が、各国民経済の中で有力な経済先進地域に変貌しつつあることの要因をおおむね把握できたが、その詳細については依然として不明確な点がある。グローバリゼーションが進展する時代において、なぜ地場中小企業だったものが世界市場でハイエンド商品をもって活躍する能力を獲得できたのか、そのような企業成長が地域の産業全体にどのような効果を及ぼしてきたのか、地方政府や企業団体などの政策がどのような役割を果たしたのかについては未解明である。またシャフハウゼンについては、複数の多国籍企業が、その欧州次元での中枢管理機能を何故スイスに、さらにスイスの中で何故シャフハウゼンを選んで配置したのか、また伝統的工業部門に属していても衰退する一方だったわけではない地場企業も少数ながら存在しており、それらが何故もちこたえているのか、その実態については明らかでない。こうした問題を、現地でのマスメディアや公的文書の閲覧と、特に重要な役割を果たしてきている企業へのインタビューなどによって探求する予定である。
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