本年度は8月27日から9月1日までドイツのエムスラントに、9月2日から16日までオーストリアのフォラールベルクに滞在し、主として活力ある製造企業の経営者から、また産業支援を任務とする公的機関からも聞き取りを行った。あわせて過去の新聞や州政府広報誌などの記録資料で不足していたものを補足収集する作業を、現地の文書館や図書館などで行なった。さらに、スイスのシャフハウゼン経済の復活に関する研究報告を日本地理学会2017年秋季学術大会で行なった。 研究成果の一部として、調査研究対象地であるエムスラント、フォラールベルク、シャフハウゼンの各地域の経済発展あるいは経済的復活を論ずるための理論的バックボーンを確立すべく、ミッテルシュタントすなわち家族所有になり当該地域に根づいている企業の役割を論じたアメリカ人経済学者や経済ジャーナリストの所説を論評する論文を公表した。 フォラールベルクに典型的なように、地域に根づき、地域の中に存在する社会的関係の維持や青少年の職業教育に積極的に関わるとともに、ビジネスとしては外国市場に積極的に打って出るミッテルシュタントの存在が、ひとたび地域経済衰退の危機に瀕することがあったとしても、その経済的復活を実現する基盤となっていることが明らかになった。また、そうしたミッテルシュタントが少なかった地域であっても、約30年ほどの期間をかけて徐々に増えることは、エムスラントの事例に認められる。他方、州政府が積極的な「自助のための支援」という政策や生活環境の整備を進めることによって、衰退しかかった地域経済が復活することはシャフハウゼンでみられた。いずれの事例も、各国独自の連邦制という基盤の上で、周辺的な地理的位置にある小規模農村地域の発展あるいは復活がなされたことを示している。 今後、各調査研究対象地域に関する論文および全体を総括する論文を執筆し、公表する予定である。
|