研究課題/領域番号 |
15K12957
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
森田 敦郎 大阪大学, 人間科学研究科, 准教授 (20436596)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 気候変動 / タイ / デルタ / 水管理 / 水文モデル / 科学技術論 |
研究実績の概要 |
本年度は、プロジェクト全体に関わる方法的な枠組みの構築と、気候変動に対応するための科学およびエンジニアリングの営みについてのフィールド調査の二点に集中して研究活動を行った。 まず、枠組みの構築に関しては、文化的想像力が科学技術にどのような経路を通して影響を与えうるのかについての概念的な整理を行った。ここでは、気候変動に晒される未来に関する多様なイメージが、SF小説やメディアの言説をとおして今まさに形成されつつあることが明らかになった。こうした多様な言説の中でも、climate fictionと言われる新たなSFジャンルは、気候変動の意味を一般に伝えるための媒体として気候学者にも注目されている。この知見を背景にして、本年度の後半にはこうした文化的想像力が気候変動に対応するための科学的技術的な試みといかに結びつきうるかについての検討を行い、今後の研究で注目すべきいくつかの焦点を明確化した。 その中でもとくに重要なのは、気候変動対策にしばしば現れる「シナリオ」である。対策シナリオはしばしば技術革新、インフラストラクチャーの再構築から必要な社会変化までを含む包括的なものであり、そこには気候変動のもとでの未来の生活に関する文化的想像力が重要な意味を持ちうる。 これらの方法的な枠組みをもとにして、本年度は都市計画/建築についての国際カンファレンスでのフィールド調査を行うとともに、水文モデルの分野で世界をリードするデンマークに滞在して水文モデルの発展に関する調査を行った。 また、これらの成果の一部をまとめた学会発表をひとつ、ヨーロッパの大学での招待講演を二つ行い、これらの口頭発表を取りまとめたものを国際ジャーナルに投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
文化的想像力と科学技術の実践に関する枠組み構築では予想以上の進展があった。ここではまず、未来に関する想像力の社会的影響力についての文献レビューを行い、本プロジェクトとして注目すべき論点を明確にすることができた。今後は、ここで明らかになった文化的想像力が気候変動対策に影響を与える経路に調査を集中することが出来るため、次年度以降の研究の加速化が期待出来る。 一方、初年度のフィールド調査をとおして、気候変動対策をめぐる国際的なネットワークの概観を明らかすることができた。このネットワークは主な要素として、1)気候変動の影響をシミュレートする水文モデルの開発に携わる科学者、コンサルタント企業、2)インフラストラクチャーのデザインに関わるエンジニアや建築家、3)地域レベルでの対策に関わるNGOや社会運動家、4)とくに大きな影響を受ける特定地域の住民たち、を含んでいる。 本年度の研究では、この4つのそれぞれについてその基本的な特徴をまとめ、今後の調査戦略の策定を行った。とくに重要だったのは1)と2)に深く関わる国際的なキーアクターを特定したことである。デンマークのDHIとオランダのDeltaresという二つの公益研究開発企業体(利益のすべてをR&Dに再投資することを義務づけられた特殊な公益企業)は、水文シミュレーションモデルの開発とインフラストラクチャーのデザインへのシミュレーションモデルの応用において世界をリードしており、気候変動への対策の構築でも中心的な役割を果たしている。今年度のデンマーク滞在を通して、この二つの企業についての情報収集を行うことができた。また、2)に関しては、タイの伝統的な街並をベースに気候変動に適応する都市デザインを行っている建築家たちと知己を得た。彼らは、社会運動や地域住民とも密接に関わっているため、今後は3)と4)に関する調査を彼らを介して進めることが期待出来る。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、前掲の1)~4)に焦点を当てて調査を進める予定である。それぞれの項目に関する調査計画は以下のとおりである。 1)DHIとDeltaresについては、2016年度に文献調査とインタビュー調査を行い、その活動の概略を明らかにする。すでに文献調査は一定程度進んでおり、2016年度中にいくつかのインタビューを行うことが今後の主要な目標になる。2)については、すでにタイで活動する建築からと知己を得ており、彼らの活動についての文献レビューもおおむね進んでいる。そのため、2016年度は彼らの実践についてより深く知るためにも、共同研究の可能性を探る予定である。3)については上記の建築からとのコラボレーションを通してアクセスする予定であり、主な調査は2017年を予定している。4)については、過去に調査したアユタヤ県の村において2017年に調査を行うことを計画している。 今後の調査研究では、上記の4つのアクターのそれぞれの概要を明らかにするとともに、1)~4)のアクターどうしの相互作用を明らかにすることも目指す。その際にはとくに、1)~2)に含まれる国際的なアクターと、2)~3)に含まれるチャオプラヤデルタにおいて活動する建築家や社会活動家が、テクノロジーや共同プロジェクトを通して以下に関わり合っているのか、それらがいかにして4)の住民の生活を巻き込んでいるのかに焦点を当てる予定である。
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