研究課題/領域番号 |
15K12957
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
森田 敦郎 大阪大学, 人間科学研究科, 准教授 (20436596)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 気候変動 / タイ / チャオプラヤ・デルタ / 水文学 / インフラストラクチャ~ / 文化的想像力 |
研究実績の概要 |
本年度の活動は、以下の4つである。1)気候変動適応に関する科学技術のグローバルな展開に焦点を当てたフィールド調査、2)科学技術の実践における文化的想像力の役割についてのフィールドおよび文献調査、3)水文学の発展における科学的概念、テクノロジーと文化的想像力の絡み合いについての歴史的、概念的分析。4)チャオプラヤ・デルタにおける気候変動適応を支援する国際的なネットワークの調査 1)については、オランダとデンマークにおいて、現在チャオプラヤデルタの水管理で主導的な役割を果たしている水循環に関する数理シミュレーション・モデル(以下、水文モデルと記載)の発展について調査を行い、社会文化的要素と技術的要素の相互作用を検討した。その結果、水文モデルの発展においては、モデルを用いた共同作業の社会組織の特徴が、オブジェクト指向プログラム言語の導入という技術革新と密接に結びついていたことが明らかになった。また、この技術革新においては、言語とオブジェクトおよび社会の関係についての哲学的な考察をプログラミングの文脈に翻訳することが重要な役割を担っていたことが明らかになった。 2)については、デンマーク、オランダ、日本においてインタビューとフィールド調査を行い、現代のグローバルな環境科学(とくに水文学、気候学、リモートセンシング)において社会、発展、都市に関する文化的なディスコースが果たす役割を検討した。 3)については、水文学の中心概念である「流域」を取り上げて、その概念の発展と環境科学・都市計画への展開に焦点を当てた分析を行い、英語論文を執筆・投稿した。 4)チャオプラヤ・デルタにおける気候変動適応は、日本、デンマーク、オランダなどの国際的な支援のもとに進められている。そこで、本年度は、これら3カ国でで行われる科学技術の実践とタイへの技術移転の関係について調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本プロジェクトの主な焦点は、気候変動のもたらす未来を予測するための科学技術とその社会的基盤を明らかにすることと、それらがいかに文化的想像力と結びついているかを明らかにすることである。この観点から見た、本年度の研究の最大の成果は、文化的想像力が想定以上に複雑な仕方で科学技術と結びついていることが明らかになったことである。 デンマークとオランダにおける水文モデルについての調査では、水文モデルへのオブジェクト指向言語の導入が、言語とオブジェクト、社会との関係についての哲学的知見の応用と複雑に関わっていたことが明らかになった。これは従来想定していた、気候変動適応シナリオと文化的想像力の相互作用とは異なるタイプの相互作用である。この相互作用は、文化的想像力や人文社会科学的な知識が水文モデルのプログラミングという技術的コアにおいて重要な役割を果たしたことを意味しており、極めて興味深い。この想定以上の知見は、今後の研究を一気に進展させる重要な焦点となる可能性を秘めている。 そのため、本年度は当初の計画以上の進展を遂げたと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、チャオプラヤ・デルタにおける気候変動適応策と文化的想像力の関係を、(1)気候変動シナリオとそれに基づく適応的なインフラストラクチャーのデザイン、および(2)シナリオを生成する基盤となる水文モデル、に焦点を当てて明らかにする。後者においては、とくに、本年度明らかになった、水文モデルの発展におけるオブジェクト指向言語と社会組織、人文社会科学的知識の関係を継続して探求する。とくにここでは、(1)オブジェクト指向言語の導入が可能にしたモデル開発者と使用者の間の多様なコラボレーションが、水文モデルの技術を途上国であるタイへ移転させる上で果たしてきた役割を明らかにするとともに、(2)そこに人文社会科学的知見およびある種の文化的な「社会モデル」が果たした役割を明らかにする。 この二つの軸に焦点を当てることによって、気候変動適応における文化的想像力の多様な役割を明らかにするとともに、両者の相互作用の舞台となる社会的実践とその組織的セッティングを明らかにする。
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