本研究は、アラスカの先住民集落社会が有する伝統的な教育方法を文化人類学的調査によって明らかにし、その成果を応用して当該社会が抱える若年者問題の解決に導くための支援制度を確立することを最終目的とするものであった。 このうち、親以外の成人(メンター)による伝統的若年者教育の伝統および現在の実践例の把握については、平成27年度より30年度(延長期間)に至る4年間で計4回の現地調査を実施し、①メンターによる若年者教育は、当該社会の文化伝承の鍵となっていたこと、②狩猟採集社会で重視される観察が重視されること、③現在でも文化伝承の場で応用事例が観察できること、④現在ではメンターにアクセスできる若者とできない若者の格差が生じていることなど、その詳細を明らかにすることができた。 これらの現地訪問では、当該社会で問題対応にあたる担当者と実現可能な支援制度の立案を目指す検討作業を併せて実施した。その結果、現地の社会環境・社会資源の不備などの問題からすぐに実施可能な制度の構築までは至らなかったが、①学校教育との両立困難、②メンター適任者の不足、②先住民の生活伝統の特徴であるアポイントメントの不確実性といった、実施に障害となる問題点の抽出は完了できた。以上の研究成果は、研究論文1本、学会等での発表3回で発表することができた。 これに基づいて、①ソーシャルワークの訓練を受けたコーディネータの設置、②メンターに対し精神保健福祉や情報守秘などのガイダンス提供、③先住民政府による活動の評価などの提言を含む制度案を作成し、平成31年3月に調査地社会に研究協力者に送付し、コメントを待っている状態である。 現在、本務校で学部長職にあるので、本研究に接続する研究に対する補助の申請は、今年度は見送ったが、研究自体は継続し本来の目的であった支援制度案の完成を目指す一方、研究成果の発表を続けていく計画である。
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