本研究は【1】あらたなフィールドワーク方法の開拓、【2】フィールドワーク教育への援用、【3】研究資料蓄積の3つの目的がある。 教育現場における実践【2】と、可能性にみちたフィールドワーク方法の実践者へのききとり【3】の両面から【1】につなげる試みであった。 昨年度に引き続き、研究代表者内藤・研究分担者川田ともにフィールドワーク教育(内藤:早稲田大学「フィールドワーク概論」「都市人類学」、川田:成城大学「文化史実習Ⅲ」)において「ひと焦点化フィールドワーク」を実践し、それぞれに充実した調査の手ごたえを学生が得ることができ、成果報告書を出すにいたった。 また、【2】に関して「ひと焦点化」によりフィールドワークを実践した『新修福岡市史民俗編ひとと人びと』の著者2名の詳細な手のうちを聞き、編集に携わった顔ぶれによるコメントおよび議論を引き出す学会シンポジウムを開催した(現代民俗学会2017年1月8日開催、於福岡市博物館「ひとから描く民俗誌:あらたなフィールドワーク技法にむけて」)。ひとに焦点を当てて街を描こうとすると、それはたんなる個人史ではなく、そのひとを中心にした人間関係と社会・街とのかかわり(社交・民俗)があらわれてくる。それは「暮らしのなかの技」ともいうべき、ひとや社会に備えられている、あるいは生み出されている知恵である。たんなるライフヒストリーに閉じ込めないフィールドワークの在り方の一端を、具体をもって示すことができた。 ひとから描くというこの手法はあたりまえのことではあるが、それがどのような手続きで行われ、現場で体感されることはどのようなことがあるのか、あまり語られてこなかった。だが、教育に援用することを考えたときに、こうしたフィールドワーカーの知恵と技もまた必要であることが明確となり、それをいかした教育実践を実施てきたという点で、本研究の目的はおおむね達成されたと考えている。
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