本研究は,民俗文化を対象としておこなわれる調査研究および研究成果の公開の諸過程において,いかなる根拠と手続きで伝統的知識およびフォークロアを保護すべきか,国際的な議論の動向,日本国内の事例にもとづき検討し,伝統的知識の実践者の人権と,研究者の表現の自由の権利の双方に配慮した調査・研究成果の公開のモデルを検討することを目的とする。伝統的知識の保護の問題は,国際的な知的財産制度をめぐる議論において重要な課題のひとつであり,そこではおもに先住民の伝統的知識の法的保護に関連する議論がなされている。その一方で,日本の民俗文化の知的財産面での保護についての議論は,先住民についての議論に比べると極端に少なく,民俗文化に関連する資料を多数収蔵している博物館の実務の参考となるような研究がほぼ見られないことから,本研究の着想に至った。 本研究は2年計画であり,最終年度の今年度は,初年度に引き続き,下記の①~③を実施し,伝統的知識の研究および成果の公開を判断する際に必要となる研究倫理と,それに基づく実務の要件を検討した。 ①世界知的所有権機構における伝統的知識及びフォークロアの保護に係る規程案策定についての議論の整理をおこなった。 ②女性が民俗宗教の中心的担い手である文化圏の例として,沖縄県宮古島における伝統的知識の保護・継承について,おもに伝統的知識の実践者へのインタビューに基づいて調査・研究をおこなった。 ③博物館における伝統的知識の公開をめぐる実務について,カナダのケベック州において,国立博物館のほか,地域の文化センターの役割を担っている地域博物館における先住民の文化の展示を事例として,博物館関係者へのインタビューに基づいて調査・研究を実施した。
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