研究課題/領域番号 |
15K12968
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
藤巻 一男 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 教授 (20456346)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 消費税 / 付加価値税 / 給与 / 転嫁 / 簡易課税制度 / 中小事業者 |
研究実績の概要 |
消費税の負担は各取引段階における転嫁を通じて最終消費者に帰着することが予定されているが、現実には事業規模、業種、取引上の力関係等により転嫁困難な場合がある。本研究では、消費税の課税ベースが給与に大きく依存することに着目し、事業者が支給する給与の額と転嫁困難性との関係について実証分析を行い、中小事業者の特例措置の再編を提言することを目的とする。そのためのデータ収集の一環として、ネット・リサーチによる実態調査(以下「本調査」という)を平成27年9月28日に実施した。本調査の委託先は株式会社インテージ(東京都千代田区神田)、調査対象は30~69歳の男女(係長クラス以上、経理担当)、有効回答は2065件である。 本調査項目の一つに簡易課税制度(消費税法37条)の適用状況がある。この制度は、中小事業者の事務負担等に配慮し、課税売上げにみなし仕入れ率を乗じて名目上の仕入額を計算するものであるが、会計検査院の指摘により、本来の趣旨から逸脱して適用され、益税が生じているなどの問題が指摘されているが、価格交渉力や市場競争力が弱く消費税を予定通りに売上先に転嫁できない中小事業者にとって、同制度は実際上「損税の補てん」として機能する。本調査によれば、納税額が少なくなるという理由で簡易課税制度を選択した事業者のうち、平成26年4月からの消費税率の引き上げに際して、販売価格の一部を据え置いた者は15.1%、すべての価格を据え置いた者は5.4%いることが判明した。 また、他の調査項目の分析結果なども踏まえ、中小事業者の特例措置の検討に必要なデータを更に収集するため今後の調査計画を策定するとともに、本研究の問題意識を再整理し付加価値の主要な要素である給与等に着目して、すべての事業者を対象とする新たな税額控除制度の在り方について考察した論文の執筆に取り組んだ(税務専門誌に発表予定)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ネット・リサーチによる実態調査は概ね計画通りに実施したが、選択肢の回答結果のクロス集計や自由記述の分析だけでは、給与等の額との関係性を踏まえた中小事業者の特例措置の在り方について考察するに足るだけの精度の高いデータはまだ十分に得られていない。 一方、本研究の問題意識を再整理し、付加価値の主要な要素である給与等に着目して、すべての事業者を対象とする新たな税額控除制度の在り方に関して、中間的な研究成果をまとめることができた。その結論は次のとおりである。 事業者が支給する給与等は課税対象とはならず、仕入税額控除ができないという現行の仕組みは、裏を返せば、給与等に係る消費税は事業者がその納税に係る事務を一括的に代行しているという見方ができる。すなわち、事業者自身に帰属する付加価値である利益の部分に係る消費税の計算・納付事務に加え、その事業者の下で働く給与所得者が生み出した付加価値である給与等に係る消費税の計算・納付事務を一括的に代行しているという見方(以下「給与等に係る消費税事務一括代行説」という)である。 給与等に係る消費税事務一括代行説に立脚した場合、給与所得者といえども、事業者の指揮命令の下で生産活動に従事するに当たり個人的に直接支出する必要経費(中間財の購入又は所得税法57条の2の特定支出控除の対象となるような支出)が実際上存在することから、その部分についても、事業者において税額控除を追加的に認めるべきという結論が導出される。その範囲をどこまで認めるかは議論の余地があるが、消費税の仕組みにおいては、簡素性の観点から給与等の額の一定割合(例えば、6%)を一律的に控除する方式が妥当である。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度においては、事業者における仕入税額控除制度の在り方について理論的な考察を更に進めるとともに、事業者の売上規模、業種・業態、人件費率、転嫁の状況などの実態調査のデータを基に多角的な分析を行うため、2回目のネット・リサーチの実施に加え、民間企業などの協力を得ながら実態調査を適宜行い、守秘義務に触れない範囲で中小事業者の特例措置の在り方について考察するに足るだけの精度の高いデータの収集に努めることとしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度においては、2回目のネット・リサーチの実施に加え、民間企業などの協力を得ながら実態調査を適宜行い、中小事業者の特例措置の在り方について考察するに足るだけの精度の高いデータの収集に取り組みたいので、次年度の旅費の一部に当てるため、繰り越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の旅費として活用する。
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